宇宙を満たしているのは。
赤児が
三人の眼の下で
葡萄の茎で殺された
ひとつの人種が
柵のなかに追われ
腹を裂かれ殺された
星のように
夢でかれらの眼を見る
きみの夢には出てこないの
たずねるその子は
眠りのなかの空の色
藍色の空
雨に打たれる紫陽花
過ぎさった死者たち
死者は白い布に包まれてはいない
海豚が行きつかない深瀬
砕けた馬車道
星が
穴あけ続ける
窓
声が聞こえる
きみが泣く
わたしが泣く
涙で枕はびっしょりだ
涙で宇宙は青い水で満たされている
本当に
宇宙は満たされたのか
きみのこころの
最もふかいところで泣くのはなにだろう
わたしたちの夢の
最も遠いところで泣いているのはなにだろう
逃れられない苦しみと
額に刻みこんだ罪
足音と
一緒に呼吸するかなしみ
手首と結ばれた
悪意
悔いと欲はすでに
ほら、
きみは向こうに置いてきてしまった
その距離はこえることができない
その
距離の深さの
きみのなかの
空白を埋めることはできない
埋めることができない溝に
流れる
のは
きみの
かなしみ
音立たず
悲しみが流れる
そのうえをほうき星が渡る
わたしたちが
眼を閉じているあいだに
きみの朝
わたしがあったことがないきみが
死んだ朝
その朝
わたしはバターの香りのなかにいる
骨を焼くむなしさを
思いだしながら
濡れた灰と
焦げるにおいを
トーストといっしょに
テーブルにならべる
トーストにフォークを刺すと
ふかい
深い
その深さのそこで
赤児が泣く
すると
きみが泣く そして
わたしが泣く
陽のあたるナイフは
記憶している
あるひとたちの泣き声を
ひとは殺す
犯す
罪に
真黒に染まり
生きて
殺して
灰になるまえに
泣く
朝
泣き声が聞こえる
みんな
夢を見たんだ
宇宙を満たしているものが
夜も
昼も
支配している夢
夢をみないために
もう
ねむることはしない
きみは
枕をたたき
窓をおおきくひらいて
あたらしい一日の
声で
からだを満たす
かなしくても
暗いままでも
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