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新しく、そして最後の朝。

その朝 愛するひとの死が どこにでもあることを シーツに感じる どこまでも沈むあたたかさに きみの死も 朝のレモンティーのかおり 死という生花を かこむテーブルで すいこむ香りは 生き生きとして 眠りがひとつの扉をくぐるように 目覚めはまた別の扉をくぐるように 黄色のテーブルクロスに 投げられた手を きみは手のひらで あたためる 生きるとは 突然で疑問だらけなものだ 今朝 どちらの世界に目覚めたのか スプーンにのこるマーマレードと 割れたティーカップ 骨を削った傷と 点滴の的確なリズム ふたつの世界を 両腕にさげて きみは歩く 恋人の腕をささえ キスをもとめる 消火栓を 何度もまわしながら 世界は火事のなか ベッドは氷った地球儀 はいったり出たりして きみを抱くなんて 愚かな庭師の鋏になり 地球の芽を 切り落とす これ以上の 欲望も死も不要だ 脚をひきずり 担架によこたわり きみは帰郷する 朝はかなしみで あるいは 慰めの過去で 始まる 今日にもどって来るとはそういうことだ ふかいかなしみと 同じふかさまで しずみ隠れる慰めと せめてきみの死に 疑問やかなしみをもつひとがいないように せめてきみの新しいいのちに 驚きや不安をもつひとがいないように きみの死 きみの新しいいのち きみは踊っている 触れると 割れる肩を抱いて わたしは リズムをとる 触れることができない きみに合わせて 生きるとはそういうことだ 不在のきみを 感じて目覚める 朝 最後の朝であれと 目をあける

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