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きみは鳥の歌をうたう

空を摘む
嘴は
金属の糸鋸ではない
箸立てに残ったプラスティックの箸ではない
爪 あるいは
魂のやわらかい外周

宇宙をふたつに最初に斬る
斬るのも斬られるのもきみである

きみは生きていくにはやさしかった

きみは今日も飢えているだろう
大蔵省の七階の窓
富士の
裾野の
言葉がない箱
わたしたちより悶えている闇
そこをひかりが
どこかへ抜ける

きみはその行き先を知っているだろうか

肉体も魂も
行け行けと唸っている
排水管を
宇宙が滑りおちていく
きみは聞く
朝 スーツの深い紺の列をみて
昼 手からこぼれたスパゲティソースのオレンジをみて
夜 みあげた空を切りきざむ
鋏のような
だれかの表情をみて

鳥が去る
耳と脳に刻まれているのは
あの鑿の音
鳥が刻んだ
鳥の姿
きみが立ち去ったあと
残されているのは
きみが語らなかった言葉
きみが暗幕に隠した
きみの裸体
だれかの存在と絡みあっている


とりはまっすぐにきせきをえがく
どうして
わたしはそのように
生きれないのだろう
全身は羽のかたまりになる

今朝
昼食会はアイシングブルー
うつくしい氷の彫像を抱く
欲望のいただきで
砕けちる
夜は孤独な赤
触れることができない
伸ばしたきみの手は血の色になる

きみは
鳥か そうでないか
わかっているだろうか

また 凍える時代がくる
流れた四千の声
浮かんだ四千の羽
素焼きの塔は
焼きのこした記憶を
風にはこばせる

飛べないわたしたちには
わたしたちの空がある
なにもとばない
朝やけも夕やけもない
生まれるものと
死にゆくものが
同じ共鳴音でわたっていく空

きみ おぼえているかい
空をおおった時の
地の色を
みんなが震えると
魂がふるえてメロディをかなでた
一羽の鳥の
命のように

きみはうたえるだろうか
だれもが死を見たときに聞いたあの歌

ある朝
きみは聞く
地のふかいところからとどく
鳥の歌
どこへ向かおうかと

耳のおくでひびく
歴史のような
昨夜のかなしみのような夜明け

涙をおとしながらうたう
きみが歌う
鳥の歌




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