TomoPoetry、海に根づくひと。
いつからこの姿勢で
立っているのだろう
出発に遅れた鳥のように
藍色の
劇場の天井を見あげる
台詞を思いだすことを
捨てた役者のように
陽射しのなか
錆びている作曲家の像のように
一日の
ながい時間
潮の満ち引きに合わせて
膝までは
既に根になり
かさかさの皮を濡らし
腰から胸は
乾いた剥製
斜めに伸ばされた右腕は
何かを求め
あるいは
何かと別れの握手のあとのように
生きている
右腕
その指先を見つめる眼は
既に
脚をあらう水に
なりつつある
まもなく
海に
わたしは流すだろう
わたしの記憶
わたしの望みとかなしみ
わたしの生と
真っ青な死を
わたしは
氷像になるまで あるいは
この星を
ながれる時間になるまで
立つ
足はない
どこからこの海まで
歩いて来たのか
それとも飛んで来たのか
わたしには
鳥や獣のような巣はない
たしかに無い
巣をもっていたか
過去を振り返ってみるが
明確に思いだせない
そもそもなにを持っていたのか
失ったのか
捨てたのか
どこかの空に
どこかの廃墟に
野菜がならぶ市場に
あたたかい肉体が
横たわっているベッドに
なにかを
残したのか
生まれた時から
もっていなかったのか
生まれた時から
わたしは空のなにかと
別れの握手の手を離し
そのまま立っているのかもしれない
海が凍るまで
乾いた荒地になるまで
立ちつづける
時に
天に向かって
喉をながれるものがある
鳥の声のように
岩の上の魚の
呼吸のように
そのとき風を思いだす
額から首すじに時にやさしく触れたもの
時に氷のように
冷酷にまっすぐ滑っていったもの
あれは
多分、時間というものだ
そこを飛んだ
というのは記憶
もうひとりの誰かの経験
時に
何十年かに一度
夢をみる
鳥の夢
まっすぐに針で空に線を書くような
夢
その先へ
わたしは手を伸ばしている
波の音が聞こえてきた
また
わたしが見たかもしれない
触れたかもしれない
最初の世界が
すこし遠ざかる
同じ方角に
同じ色合いで
それは見えている
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