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TomoPoetry、空に欠けている、何かが。

朝 眼が覚めると
あなたは
あおく透明な皮膚
透きとおった
肉体
蒸発しつづける記憶
それぞれを掴もうともがき
シーツの上で
溺れている
既に
星の中心の
丸い硝子ボールのなかに
浮いているのは
あなたの恋人 あるいは
父親か
まだ生まれていないこども

生まれてくるのは
こども
とは限らない
茹で卵や
花火やチューリップ
どれにも鋏を入れてはいけない
あなたは探している
白や赤
踏み潰した絵の具箱のような
あなたが
望む
やわらかいもの

母の手
煮たホウレン草
パステルで描いた電車
栗色の
夢の記憶
昼食のサンドウィッチ
歩く脚のリズム
かなしみに近いずれ方
地軸の傾きに合わせて
全身を折り曲げ
鼻をかむ

何かが欠けている
空から何かが欠けている
そのために
わたしたちは
冷酷になってしまった

冷たい未来は
一枚の色紙
虐殺は
一枚のモノクロ写真
記憶から色が抜け落ちている

母と姉の空は
裂かれたまま
凍っている
銀の色
剣は天に刺さっているが
今日か明日には
落ちるだろう
また誰かの空を切り裂きながら

わたしたちは誰を抱きしめればいいのだ
空にもわたしたちにも
両腕が欠けている
抱きしめる胸が欠けている


そこを渡るのは白い夢
赤いかなしみ
黒い涙
色のない意味
風を巡らす空に欠けている
あたたかい眼差しと
深い海の
のぞみ

何を見たいのか答えてみるがいい
空のまるさ
なにも見えないところから
風が吹いてくる
すべてを凍らせ
すべてをあたためる
呼吸のように

空に欠けていると感じたことがあったとしても
それは勘違いだ
その時は
思いだしてほしい
愛していると
あなたの手を握ったのは
死ぬことがない
空の
手のひらかもしれない

もし見えないとしても
握ってみよ
あたたかさに
懐かしさを感じるかもしれない

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