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Tomo Poetry、時がすべりゆく。

挽肉を丸めながら
月を薄く伸ばしている
手のしたを
すべりゆく
銀河系星雲と海星
カナダの黄金の波
乾いた皮膚の獣
まだあたたかい青い肉体
すべてがすべり落ちる
螺旋状の
時のすべり台
喚声に悲鳴そして沈黙が
ながれていく

銃の列の上を
蜻蛉が渡った
赤い星のように
宇宙に
飲み込まれるために
時をたぐり寄せ
あなたの魂は
教会の鐘楼をつなぎ
河をみちびき
まるい星をころがす

一日を丸めると
誰もいないガラス球で
音楽が鳴っている
ちいさく
かなたの星雲からの囁きのように

時が
飛んで行った
モネの睡蓮とレモネードの空間を
昨夜の月のように
迷い込んできた
敗残兵のように
裸のマネキンとラクダの列
明日出発する少女のように
落下し続ける
かなしみ
ひとつの音声とともに
鮑の尾骶骨の固さのような
青の礼服の地球の風のような
触れることの難しさ
塗りつぶされた

シンボルと流砂に埋まった肉体
粉になった石灰石
あなたが知っている
肌触り

指からこぼれる時間を
その時の色で染める
赤く燃える寝室
青くならんだ映写機
銀色の葬儀
純白の赤子
記憶にない闇
頁をめくる前の
わずかなうす明るい時間

テーブルを転がるマーブル
惑星が床で跳ねる
あなたが摘まむ
新しい銀河系が回転している
テーブルの下で
なりわたるひとつの声
時はみじん切りにした
隔たりはフライにした
はるかの過去から流れきて
はるかの未来を
追っていく

両手で時の流れを受けとめる
砂がさらさらと
白い魂がさらさらと
床にすべり落ち
時といっしょに
ながれていく

今日はそろそろ食事にしよう
あなたの言葉で
わたしは水に手を浸す
ゆびのあいだを
わたしのものでなくなった時が
すべりおち
時間の底に
沈む

手を清め
記憶が漂白されると
器もすべて
時といっしょに
すべっていく
台所の片隅の
深い底へ


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