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TomoPoetry、河は濡れたまま。

都は濡れたまま
いくつもの色ついた時代と
黒く
焼けこがれた歴史を
幾層にも
重ねていく
時にクリームをはさみ
地層のように
パステルを塗りかさねるように
最後に
漆喰をコテで塗り
踏み固める

都の湿りと
歴史の涙は
深くしずみ
河に滲み出てくる
だから
人類から
ながれでるものは
濡れたままだ
ユーラシアの砂漠に沁みた水
乾いた骨は
博物館へ
インスタント食品工場へ
アフリカのジャングルを
さまよう水
切り取った腕は
蚤の市へ
動物園へ

地下をながれる河は枯れることはない
手で触れると
子どもを失った母親の頰
下げられて
天の雫がしたたる死
河は
沈黙し
濡れたまま
星を湿らしていく

水道橋のしたを
花がながれる
骨がながれる
人がながれる
びっしょり濡れたまま
溶けたストロベリーアイスクリーム
墓標の列に
数世紀前の雪
高層マンションから
ながれ落ちる滝
十字架と
フォークとナイフ
お茶の水で
愛撫のあとを洗い
濡れたままの
かなしみが
見知らぬ手を
洗う

記憶は海にながれる
青や黒の
背を剥がして
ページを破って
言葉を刻む
海がかなしみの味がする
それは言葉が溶けたから
水でおおわれた星が
かなしみの味がするのは
人が溶けたから

大地を濡らしながら
流れるのは
すべてを溶かした河
底をながれる音は
溶けきれなかった
ひとの最後の息
誰かにつなぐために
記憶を隠した
星の秘密
赤い雫
銀の鎖
青いかなしみに濡れたまま
河は
流れていく
あの水道橋の
青いかなしみは誰に
掬われるだろう
星が
子午線から
割れていくように
ひとのかなしみは
罅から
ながれでる
手ですくうと
吐息に
遅れて
青い夕暮れになる

わたしの手から
幾筋も
河がはじまり
わたしの手も
わたしも
河も
だれかの夢がしたたるので
濡れたままだ

今日は
たくさんの夢を攪拌したので
たくさんの死を溶かしたので
夕暮れも
河も
赤く濡れている

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