TomoPoetry、どこかで待っているあなた。
どこまで歩いたか
あなたは
わたしは片足で立っている
次に
足裏を付けるのは
どの地図
装甲車が曲がった
ギリシャの
次の時代の地図 あるいは
鉄条網の文字を
掘り込む
砂漠の岩
掘りかえすのは
数百年後
だれも読む意思がない頃
既に
昨夜死者から
受け取った石板は
線路に砕かれた
わたしは
あなたの位置を
葬儀のモノクロ写真から
推測する
あなたには既に
両脚はない
あなたはどこに浮いているのか
足跡がないあなたの
足跡を
追っている
地に影の香りが残っている
脚を失ったときの
かなしみと
安堵の
乾杯のグラスに残った泡のような
ひとつの国を
渡りきったときの
落胆と
絶望の
予感でびっしょりのベッドのような
星に沁みた血の
地の底をながれる音
あふれつづける
深夜の地下水
その冷たさに
ふるえる都市
罅割れる路地
扉のなかに
残された声
悲鳴
よろこびの声も聞けた時代があったのに
わたしはかなしい鳥の声を追っている
わたしはまだ鳥だ
片脚で立っている
ひとつの季節より
短い時間
それが過ぎるころ
わたしは飛ぶ
あなたの声を辿って
つかれて倒れることがある
あなたは
つかれたら
地に横たわるのか
河をながれるのか
天を向き
あるいは地を向く
そのとき
夢を思い出さないか
半世紀前の夢
暗闇を通り抜け
たどり着いた執行台
そのころ
わたしたちは走り回っていた
数千年前のキルギスの麦畑
二千年前の
アトラスの斜面
ドラが鳴る
空はパステル色の風船
ジャズのドラムの音
真っ赤な口の
歓声
立っている脚先の靴は
他者の血で
ワイン色に染まる
乾杯 それとも
葬送
わたしたちには判断できなかった
ひとつの脚が倒れる
いっせいにグラスが割れる
高い音で
空が砕けて
降ってきた
執行された
それ以来
わたしたちはさまよっている
脚を徐々に失いながら
こちら側の空は色がない
あなたが
見ている空は
光っているか
わたしたちは空を失ったのだ
脚と同時に
影も
わたしは香りを追っている
目を閉じると
暗闇に
あなたの歩んだ道を見せる
歩んだと言っていいだろうか
あなたが
風に乗って
移動した道だ
いろいろな思いといっしょに
あなたの影の
香りが
大地に擦りこまれている
わたしは
地に鼻を擦り付け
あなたの位置を
判断する
わたしだけが
覚えている
あなたの香りを
たよりに歩む
あなたに顔を埋め
そのままあなたの記憶になる
あなたはわたしを
名前で呼ぶだろう
あなたはどこかの街角に浮かんで
わたしを待っている
空からの
鋭いことばが
わたしたちの姿をはっきり
地に描くだろう
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?