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Tomo Poetry、おくる、おくられる記憶。

おくる記憶
二十代に雨が降りつづけ
地がながれるように
母をおくった
だれもが黙っていた
沈黙が永遠につづくように
地球は停止していた

四十代にまるく暗くなった
父をおくった
石をころがし
水路をつくるように
父が座っていたしたは
湿った庭
いろいろな貝が覆っていた

庭に泡をあふれさせ
冷えた氷水のような
詫びと礼を
カシャッと噛んだ

スーパーの固い肉饅
蒸したらよいのだろうが
重く手に持てず
わたしのこころの奥底にするりとすべり落ち
わたしが手にした何よりも重くなる
母の何も語らない眼の
重さのように
海の底に沈みゆく
父の喉は震えることはない
軽くなった地球の
小さな庭に
昼間の星がさらさら降る

それを受け止めるのに四半世紀
人間はなんとゆっくりなんだろう

彼とあうだろうか
彼女とあうだろうか
語ることもなく会えたことを喜んで
はじめてのファミレスでのデートのように
死の知らせの後に
病室であったときの手のように
抱き合うだろうか それとも
未来の風音のように
笑いながら
パパイヤをゆらすだろうか

ここは空
それとも空のむこうの
水滴がただよう空間
アイスクリームをかき回すきみの笑顔の雲
まくらに顔を伏せ
地の音を聞くやる
きみは
太陽系をお腹にかかえている
おくるのか おくられるのか
わたしはお腹をめぐる太陽系を感じる

もう四半世紀以上
わたしのなかにバラバラと降りつづける星たち

光に溶けゆきながら
母が緑の陰を通りすがる
父が昼寝をしている船は
空を渡っていく

ある朝
わたしはわたしのすべてをかかえて寝室を出る
太陽系とたくさんの魂のおかげで
わたしの魂は
宇宙の重さになっている

交差点を渡るとき
髪はアンドロメダをくっつけている
両腕の重さは時間のように
はかることができない

かるくなりたい
次の横断歩道から
風になる

子供がはなしてしまった風船のように
吸い殻の煙のように
風に揺らぎながら
スキップをする
なつかしいうしろ姿の
リズムを追いながら

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