見出し画像

TomoPoetry、呼吸のような風。

きみは背をまるめて
海にむかうほそい道に
うずくまる
首に風を感じる
鋭い刃のように銀色の深夜の風
泣き叫ぶ群衆の呻めきをはこぶ風
過去から
丸い林檎の黒ぐろとした窪みから
マングローブの根と絡みあう四肢から
空に放たれた声をはこぶ
風がきみを乾かしていく

きみが抱えこんでいる時間は
何度も上下を変える砂時計のように
はじまりも終わりもない
風のさらさらという音を
すべての死者が聞く
降りそそぐのは
銀色の砕けた空
灰になった記憶
きみの肉体をながれる
星雲の音楽

四肢はひび割れた弦楽器
きみの背で
アルファベットの最初の低音がひびく
空が共鳴して
闇が深いパープルになり
とおい星が膨らむように
紅色の柘榴がはじける
早朝
きみの背を
手の形の光が触れていく

あれは赤ん坊の泣き声 あるいは
海があふれるあたらしい朝

きみの影は
海へつながる宇宙を巡る道を
這って進みはじめる
夜明け前の瞳のような

それがあたらしいきみだ

きみは自由について考える そして
絶望からはじまる道について

きみがつかもうとする
砕かれた骨 そして
触れることができない記憶
握ることができない
透きとおった水晶のような
手の夢

きみは思いだしている
砂になり海底に積もる都市
剣が刺さったままの夢

きみはもっとも遠い未来の
時間を見る
それはブルー
十七世紀の青いペチコート
見えないものを信じ
歩んだ海底のコバルト
きみはプリズムが照らし出す人類史を見る

うずくまり
きみの丸い背は
ファルセットで歌う
空に聞かせるために
生きていた時の赤さで
赤ん坊の
言葉にならない希望の
泣き声のように
宇宙に細くながれる歌

わたしは見えない楽器のビブラートを聞く
風は呼吸のようにやわらかい
きみにも聞こえているだろうか

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?