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いない鳥の羽音

**しとぴとぽとと 水のしたたり 星をおおい揺らす 地のこまかい鼓動 骨のふるえる記憶 数千年の 時の振動 何も聞こえない 死のあかるさと 日差しのするどさ 鳥の影のように 不鮮明な 言葉 楕円をえがいて 運ぶ 透きとおりかけた きみの肉体 方舟まで くねくねと 捻れた音調で ほそい咽喉から 最後のうたを とどかせる 〈鳥はいつも影になって 過去から未来へ移動する〉 死を 受けとめる空はない 鳥は 死となって空を迷う 半世紀過ぎ まだ鳥の声は地にとどかない 地が乾く 灰のようにさらさら降る言葉 深夜 皿の灰を指先につけ ひとびとは真実をさがす ひそかに 降りつずける鳥の骨 海底では ひそひそ灰が積もる 鳥の囁きが きこえる夜 海を水かきがたたく 沈黙して わたる眠る都を 足から したしと 落ちるのはあたらしい言葉 それとも星に残すいのち 歩く 阿佐谷 夜があける時 言葉が濡れている わたしたちの真上を 鳥のように 渡る いつも 星の揺れるのに合わせて その下を 眼を閉じてすすむ 乾きゆく肉体の音が 耳で鳴る いない鳥の 羽音のように**

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