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ちいさな者へ


目が覚めると
きみは河の向こうから
こちらを見ている

すべてが破壊され
まだ煤が熱をもっている
時を
目覚めるには早すぎると
眠り あるいは
生がはじまる前の
かなしみの笛が鳴る前の
わたしを
きみは水で流しさろうと
あおい眼を
ふくらませ わたしが腰をおろした星を
ぴっしょり濡らす

言葉から言葉へ落ちていく
いのちは
透きとおった卵
時よりも
すこし先で
割れていく

ちいさな者よ
忘れてはいけない
歪んだ顔の
おだやかに静かな眼を
そこからきみの
記憶と呼吸ははじまる

かなしい音楽が
泡だちながら
きみを洗っていく

ちいさな者よ
わたしは流れていく
きみの咽喉を
いくつかの和音となって

空から落ちてくるわたしは
きみの足を洗う

さあ きみが
歩きはじめる時だ
裸足の肌に
歴史の針が
雲と風を
そして死のにおいを刺し入れる

きみをながれる河に浮かぶ
燃える柱
音たてる言葉
きらきらゆれる
青いひかりは
わたしが見ている
きみの
歩みがゆらす時間だ

まもなく
雨の音のなかに
きみの名を呼ぶ声がする
眼をとじて
歩きはじめよ

ちいさな者よ































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