TomoPoetry、後ろには光と闇と、ふりかえるな。
ふりかえるな
きみは何処から語っているのだろう
凍った黒い歩道
こおりこなごなに降りくる黒い宇宙
わたしの出発地はわからない
ぶくぶく
呼吸音が聞こえない海底
砂浜をかけのぼり
コンクリートの箱に入り
やわらかい手指や
みどりの蔓に抱かれて
今 木箱にいる
冷めきったケンタッキーのような
黴が覆う名もない立方体のような
存在
廃棄してもいい
砕いてもいい
火をつけてもいい
向こうから駆けてくるのは
名前のない
きみ
一呼吸すぎると
わたしたちは透明な記憶になる
つめたいガラスの感触
溶ける骨の時間
流れだす欲望ののこりもの
そのうえに
わたしたちはよこたわる
ふりかえるな
もう一度いう 存在しないものを見ようとしてはならない
きみは語っている
わたしの肉体が存在しない時
わたしの魂が
わたしのものでない時
その明るい朝に
包丁は葱を切る
油に肉をなげこむ
おっと ナスを忘れてはいけない
葱も肉もナスも そして
あなたも今朝で調理しなくてはいけません
きみの代わりに語る声
きみ 語ってほしい
ひとにはすべてを手放す時があるなら
この地に
火を注いでほしい
わたしの台所のフライパンに
進めず
座りこんでいるわたしに
注いでくれないか
いまは朝
夜明けのない朝 あるいは
闇に
慣れすぎた朝
わたしはふりかえる
時ではない
宇宙ではない
わたしのなかの人類のながれを
何も見えない
声しか聞こえない
光の声と闇の声
声を発する顔を見ることはできない
ふりかえるな
だから言っただろう
きみは
多分 向こうから語っている
わたしの前を 宇宙が
つめたい雨のように落ちていく
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