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TomoPoetryー春、ゆらめきながら歩む。




右手人差し指が
人生のセレナーデを辿っている
あるいは 指揮で
まとめている
地表に経線と傾いた
日の歩みの跡

日比谷の水際
フィリピンの排水路の湿り
消えていく足跡を
踏みしめながら
わたしたちはゆれる

今日いちにちだけ
梅と桜のあいだをゆれ歩く
生きていることを思い出すために
口からはのぼりつづける鳥の
止むことのない歌
フリュートを
持つ手は春風のようにゆれる

地は揺れつづけてきた
ティンパニが共鳴し合い
終わることのないダンスパーティなように

だれもが振り子時計が鳴るのを待っていた
厚い歴史書が
埃をあげて閉じられるのを

春のゆらめき
かれが森になった春
きみの海の底を探った春
少女時代のスカートを裂いた春
亡霊の銃が燃えた春
父のために花を選ぶ春
まもなく死ぬもののために
青いしゃぼん玉で
空を満たす春
地球は透きとおり
メリーゴーランドのように
不安定な春

春は障子の音といっしょに滑りこんでくる
わたしたちの失われたところを
埋め合わせるために

わたしたちの生も死も
春にのみこまれる
眼はない
耳はいつなくなったろう
唇はあるのだろうか
春が食べるなら
魂も食べてほしい

スプリングファッションの街の
地下鉄に祖先の魂がのっている
語らず
目くばせもせず
ゆらゆらと降りる
なにも聞こえない
見えない
春の
桃のプリンのような地を
きみとわたしは歩く
ゆらめきながら
すでに透きとおり
薄い和紙と竹籤に解体された
たくさんの春と
ぶつかり
やわらかい魂に触れながら
ゆらめき
歩く
春に染まりながら


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