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Tomo Poetry、見えない石の塔。

三百億の紙人形を
ひと夜に一度で
ていねいに折りたたみ
生わさびのからさの
記憶は
言葉だけの若草色の
薄まり

だれも証言しないのか
その夜の空の色の
真紅のひろがりについて

そのまま忘れてしまったはずだが
きみを抱いた後
薬莢のかたちの吐息のころがり

きみは思いだすだろうか
過去という宇宙は
巨大な苺
生の落ちる前のように
死が飾り箱にならぶように
テーブルクロスは十時に染められ
銀食器はまだかき回している
となりのダイニングテーブルで
さまざまな世界地図を

地殻がパラパラはがれ落ちる
きみは誰かの背に爪を立てつぶやく
フォークはブロッコリとおなじ速さで
凍えていく
おぼえている痛みが
明確にしるされ
経験していないいたみを予感するように

横たわる父のうえに
石を積みあげる
たくさんの手は
母とおなじ刺青
記憶がそこでとだえ
わたしはそこから開始する

わたしはおぼえている
癒されることのない三百億の傷と
乾いた欲望の指跡の模様を
その色と
そこから立ちのぼる風の
湿度と
大理石の床にてんてんと
あなたがこぼしたものを

今日も
風を青く染める
あなたのバグパイプ 

銀座をあるくあなたは
曲がるたびに
石を積む
みえない人のために
みえない塔が
過去よりも高くなるまで

その時
わたしは塔をめぐる歌を聞く
そのとき生きているなら
わたしが塔の影の一部なら
きみが
書きしるしてほしい
その歌を
きみの皮膚に

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