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Tomo Poetry、世界のなかのわたしとわたしのなかの世界。

世界が生まれる
正確には
わたしは脊髄で知る 
わたしを抱く手のひら
羽の形の眠り
土筆のいのち
わたしという痛み
クリームなしのシュークリームの甘さ
雲と海の泡からコスモスを
練りあげる手
手を開くと
世界は
青い星雲のように
回転している
きらきらと

世界には
天婦羅屋の燃える油
湯からあがる
死んだ祖先
崩れていくラフランス
皿にはトマトとアスパラのカレー
全ての死と
明日のために
歴史のある朝
鏡を
二千年後のわたしがとおる
わたしが立ち去ると
鏡に見えた世界が消える
観覧車のような時計
白紙のカレンダー
星のない天体図
子午線のない地球
背骨のないわたしが
生まれる

思い出せるのは
二日前の世界
ザーサイをのせたお粥
間借りしているマネキン
転倒したケンタッキーおじさん
冷凍されたヨーロッパ
眠っている鮭
扉が重いので
だれも入ってこない
痩せた肉体では
時の扉は
動かすことができない

百年の歴史を整理する
良いことも
悪いことも
窓の桑の木には
数十億年のいのちが下がっている
マチュピチュに降った雨
仏陀が頭をのせた布
イサクが背に感じた薪
言葉を語る蛇
光を放った口
それらは
わたしのなかの世界
百年の
時の深みの出来事
世界が生まれてから
昨夜のディナーまでの
記憶

世界を
魂であたためながらすごす
しかし
いつも意識は二日遅れて
世界に気づく

あなたは
肉体の死を見た翌日
出発するだろう
二日の間
さびしさにあなたの連れ合いは泣くだろう
白菜と豚肉は
冷蔵庫で二日間眠る
恋人がおかえりと言う
あなたはあたらしい世界を
テーブルにひろげる
そこには
あなたが眠っている
卵を握りしめて

連れ合いは卵を割ろうとする
あたらしい世界が入っている
確かではないが
卵は手のひらにある


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