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密航者のふみだすところ

はっきり見えない 始まりへ 鼻先をむけて 過去の端切れを 裾にはためかせ めくれる下着をなおす 腹がたわむと たくしあげ 体温にそって 羽毛のように なびかせる 生きているので コートをまとう きみは生きているか 凍った星のように 砕け 道をながれていないか 剥がされた骨格は 何かを見あげ 天体図に 生きる意味を 描いていないか 座像のたなごころや内股より あたたかい 絡んだ輪郭を さらに重ね 歯軋りし 人間であろうとしていないか たたれるのは 絶望ではない むすばれるのは 模造の希望ではない すきっ腹をたばねるひも一本 彼岸からめくりあげた皮膚を まえびらきのまま纏うと ひとは 避妊器具のようにかなしい 角度に苛立つ凧糸 ふるえる物干の袖 スカート その波に 首をからめる 密航者は 面をかぶり 凍えるこまたを小刻みにうごかす 鋏 ひややかに たもとを引く 向こう岸まで 今日も 風は どこかの 星からふいている きみの 最初に踏むみちは きみを どこへ導くか 知らない道を 知らないところへ そこがきみが目指しているところ どこにも 存在しないところ

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