ながれる水の音
深夜ねむりに落ちたからだを
水がながれる
さらさらちょろちょろと
チンギスハーンの刃から滴るように
少女の背に銃口をあてた
少年兵の額からあふれるように
ながれるものはあなたの手首をめぐり
人差し指のさきから
暗闇の青い星に
滴る
時を知らせる時計のように
あなたは歴史すべての死に責任がある
命を与えられたものの姿勢は
時を重ねた重みに
耐えなければならない
冷蔵庫からとりだした人参を
月よりも薄くスライスする
歴史を
透かし見るために
台所に焼けた跡と水のながれる星の
においがあふれる
カーテンの隙間からのあかりの中
あなたは切る
血の色の根菜類を
命が乾いた冷凍肉を
色褪せた星図を
実体をもたない肉体を
少女を銃殺したあなたを
赤ん坊の上を
走るキャタピラを
そのうえにオリーブオイルの
ドレッシングをたっぷりかける
時にはヨーグルトと蜂蜜と卵黄を
銀河のように攪拌して
あなたは食べる
あなたの罪
あなたの欲
あなたの人生を
今わたしは聞いている
あなたの横を流れている川の水の音を
まもなくわたしは水になる そして
あなたは 夢や
目覚めた一瞬に
この音を思いだすだろう
あなたの眠りの空を
流れつづける音
透きとおった青
赤ん坊をながれる赤
とおい銀
足先がつめたいだろう
これから見る川の
つめたさ
つめたい床にあなたは立つ
今日の空は
底が見えるだろうか
まだ窓は開けない
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