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優しくなれない

壊れそうな夜 君からの着信
泣き声混じりに「話を聞いてほしい」
僕はただ頷くだけ 言葉選びを間違えないように

翼も輪もない天使みたいだ
下町通りの夕暮れの記憶が
君の婚約の件で 嘘みたいに思えてきた

「僕の方が良かったんじゃないの」
その言葉は 煙に絡めて換気扇に消える
もしも 素直に言えてたら 腑に落ちたかな
「今でもずっと―」

僕はきっと優しくなれない
その未来理想図を破り捨ててあげられたら
いつか きっと 何かの間違いで
僕の腕の中で その天使も眠りにつけるかな

師走には遂に母親になるんだね
産声の最中 僕はどこにいて 誰と何をしているだろう
子供にも僕の歌を聴かせてよ

僕は酷い言葉は遣わない
暴力も振るわない でも隣に居られない
信じたくない話ばかりで
それでも彼なんだね 埒が明かないよ

僕はきっと優しくなれない
その未来理想図を破り捨ててあげられたら
いつか きっと 何かの間違いで
言えたらいいのに
「僕の方が良かったんじゃないの」

 この曲を書く背景に3つの出来事があった。3つ目が作曲しようと思うきっかけになった。

ーーー

① 高校からの女友達が、気付いたら金持ちの彼氏が出来てデキ婚していた。僕のことを好いていてくれた時期が少しあったらしいと後に知る。

② 2年前くらいに付き合っていた元彼女が家庭環境が複雑な人で「お前はもともと産まれてくる予定じゃなかった」と親に言われたことがトラウマだと話してくれたことがあった。

③ 女友達が彼氏と幸せそうにしている裏で、DVや妊娠きっかけのトラブルなどがあったことを電話で話してくれたことがあった。

ーーー

という3つ。俺は自分で言うけど家庭環境にはかなり恵まれていると思う。高校入るまで父親が厳しかったくらいで、親戚との交流を大事にする親だったし、今の生活も応援してくれている。だからこういう複雑な家庭環境の中を生きている人を身近に感じると、とてもいたたまれない気持ちになる。それを作曲するまでに持っていった出来事が③の話だった。

 普段連絡を取る仲じゃなかったけど、急に連絡が来た日があって「今電話していいかな」と聞かれたことがあった。なんとなく尋常ではないなと思ってすぐ電話に出ると、泣きながら恋人とのあれこれを話してくれた。信じたくないような、悲しい話の数々。僕には何も出来なかったし何もしてやれないけど、何か別のこころの傷口にすら染み渡るように噛み締めて聞いていた。

 彼女はまさに高嶺の花だった。僕のことを「推しです!」的な感じで好きだと言ってくれていたけど、彼女は綺麗すぎて、それが信じ切れなくて「ありがとう」しか言えなかった。「僕の方が良かったんじゃないの?」って本当は言ってやりたかった。何かそういう不意打ちのアタオカ発言で視線を別に持っていけたら、結果俺が嫌われても少しは楽になったりするだろうか、なんて思いながら聞いていた。余計な考え事やストレスを与えちゃいけないと思って、黙って頷くだけだった。フルパワーの換気扇の横でタバコをスパスパ吸って誤魔化していた。

 俺だったらそんな暴言は吐かないし、家のモノに当たったりしないし、彼女に暴力を振るったり「俺の子じゃない」なんて言わないし、それがエスカレートして警察を呼ばれるようなこともしない。でもその彼氏と比べて俺の良いところなんて、プラスでしてあげられることは何も思いつかなかった。

 12月出産予定だった子供は、無事に産まれたらしい。普段音楽を僕らほど好んで聴かない彼女は、YouTubeのプレイリストでマイヘアやFOMAREに混ざってMOCKENを毎日聴いてくれている。「子供にも僕の歌を聴かせてよ」と書いた頃にはもう聴きまくっていたみたいだ。嬉しかった。たった今はどうか知らないけど。

 「翼も輪もない天使」は後に気付いたけど絶対に「明日、照らす」の「LOVE SONG」と ドラゴンボールZのブウ編のED曲「僕達は天使だった/影山ヒロノブ」から来ている。この歌詞は自分でも気に入っている。To my friends♪ 背中の羽は失くしたけれど...♪

 あとこの曲はMOCKENでは珍しく歌から入るんだけど、アルステイクと対バンしてライブを観て、そうしてみようと思った。Vo/Gt ひだかくんにアルバムの音源を送るときにも伝えた。MOCKENのアイデンティティの一つはイントロ・アウトロだと思っていて、特にギターリフだと思っている。だから思いっきしイントロを省いて間奏も少なめなのは個人的にやって来なかったことやってみようの類だった。その短い間奏の中に、開放弦を入れたオルタナっぽいリフを挟んだのがせめてもの抗いのつもりだった。Dr.のあむくんに大阪でライブを観てもらったときに「イントロとか間奏、マジでカッコ良いよ」って言ってくれたときめっちゃ嬉しかったの覚えてます。

 まとめると①②③のみんな幸せになってほしいし、母親という存在は偉大だと再確認する経験にもなった。マジ最強。すごすぎ。普段ライブハウスに来づらいそんな人達にも、十分に価値を提供できるバンドになりたいな。

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