雑記:ゲーム音楽演奏会の「お客さん」として、ここ数年での変化はきっとこんな感じだと思う。

私はゲーム音楽のコンサートやライブを観覧するのが好きです。これまでもプロアマ問わず、色んなコンサートやライブを観覧してきましたが、その中で色んな変化があったと思います。そのうちの一つについて、少し書いてみようと思います。

コンサートもライブも色々な場所で開催されます。サントリーホールのような大きなクラシック演奏のホールから、ライブハウスまで。収容キャパシティも違うし、座席のあり無しも、音の響き方も全く異なります。勿論演奏形態も様々なものがあることがわかりました。弦楽アンサンブルのような小編成もあるし、吹奏楽編成、フルオーケストラ、バンドスタイル、コーラス、もしくはそれらの混合編成など演奏される曲目によって、その編成や規模は様々です。
この様々な演奏形態について考えることも面白いとは思うのですが、私は観客側なので、観客側のことを考えてみます。

私自身の経験から

私はこれまでも、ゲーム音楽演奏会の楽しみ方、観覧の仕方について考えてきました。
ゲーム音楽演奏会の楽しみ方について考える
演奏会を聴きに行く時には、マナーがあるということ。そしてそのマナーは演奏される編成や演奏される会場によって変わってくるということ。そして、ゲーム音楽はそれまでのクラシックなマナーで楽しむものから、はみ出た楽しみ方もあるのではないかということ。こういったことを考えてきた次第です。
この記事を書いた頃は、ゲーム音楽演奏会といえば、プロアマ問わず、コンサートホール等で開催される、オーケストラやアンサンブル編成などの演奏会が多かったように思います。特にアマチュアコンサートについては、演奏団体の人たちが主に吹奏楽・クラシック音楽経験者が中心となっていたことも影響しているのでしょうか、それらがほとんどだったように思います。(単純に私が知る範囲が狭かっただけかもしれませんが)
このような場所での演奏会で求められるマナーは、いわゆるクラシック演奏会のマナーにほぼ近いものだと思います。着席し、演奏中は物音を立てず、指揮者が腕を下ろしこちらに礼をするまでは声も拍手もしないような、演奏される音を何より優先する楽しみ方です。
一方、私はバンド形式でライブハウスなどで開催される演奏会にも足を運ぶようになりました。
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あの時会場は冷めていた

私はかつてニコニコ闘会議2016のZUNTATAのライブに行った時のことをまだはっきりと覚えています。 
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あの時、それまで名前しか知らなかったZUNTATAの人たちが、目の前で「DADDY MULK」を演奏してくれたことに、私は興奮して声を上げ、手を振り上げ、力一杯に手をたたいてその演奏に応えていました。ところがどっこい、周りにいる明らかにZUNTATAの大ファンであろう年季の入ったファンの人たちはじっとステージを見つめて、腕組みをしながら棒立ちし続けているだけ。あの名曲がこんなにダイナミックにアレンジされて生で演奏されているのに、その演奏の盛り上がりにピクリとも反応しない様子に、当時の私はびっくりしました。最後の「電車でGO!GO!GO!」の時にやっと声が出てくる感じの会場を見て、なぜ盛り上がれないのか、なぜこんなにアガる曲なのになぜみんな黙っているのかと憤っていました。(あくまで私の主観です、他の人がどう感じたのかはそれぞれにお任せします)このままじゃZUNTATAの曲がどんなに良くても、ゲームをしらない新しいファンが寄ってこなくて、このまま皆に忘れられてしまうのではないか、と勝手な危機感すら覚えていました。それ以来です、観客について考えるようになったことは。

それから時は流れ、ここ最近(2019年)は、私が演奏会を聴き始めた時よりも、色んな変化があったと思います。

・ゲームを開発・発売した企業が主催するコンサートが増えた

ここ数年、企業主催のコンサートが多くなったと感じています。ゲームタイトル単体で開催されるもの、シリーズ全体を通して開催されるものなどがメインとなっている印象です。プロの楽団や指揮者で大きなホールで演奏されるもの。このタイプは、合間のトークなどに当時開発に関わってきた方たちがゲストで参加するなど、いわゆる「公式」の強みが出るものが多いと思います。グッズ販売も行われることも多いのでファンとしては嬉しいところかもしれません。

・作曲家等に注目した演奏会が増えた

また、ゲームソフトではなく、作曲者の方に注目した演奏会も増えてきたと思います。以前はアマチュアコンサート等で取り上げられることも多かったのですが、ここ最近は演奏会などの主催団体が開催する、ゲームソフトではなく、作曲者に注目して複数のゲームタイトルの曲を演奏するものも増えてきたように思います。これらの場合、作曲者自身が演奏に参加したり、時には作曲者が親交のあるミュージシャンなども参加するケースもありました。

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・いわゆるライブ形式の演奏会が増えた

バンド編成でエレキギターなどを使った激しい曲(オーケストラの演奏が激しくないわけではない)やロック調の曲も積極的に演奏されるようになってきたように思います。(1990年代にはむしろバンド編成の方がメジャーだったということもありますが。)私も積極的に足を運ぶようにしています。
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大きなライブハウスでロックバンドの激しい演奏が楽しめるのは、とても嬉しいです。

また、開催される会場や、その開催形態がだけでなく、観客、演奏者などの関わる人の様子も少しずつ変わってきたように感じてきました。

・ライブ慣れしたお客さんが増えてきた

先ほど挙げたライブアライブや逆転裁判のライブのように、私は同じコンセプトのライブに連続で参加したこともあります。そうすると、前の年のライブと比較して、翌年に開催されていたライブの方がどちらも「お客さんの盛り上がりが大きくなっている」と感じました。その理由は色々あると思います。一度参戦しているライブなのでその雰囲気に慣れた、演奏される曲目がある程度予想できるので盛り上がりやすかった、盛り上がりやすいライブ会場だった、などなど予想できると思います。
特に私が感じたのは「ライブの盛り上がり方に慣れたお客さんが増えた」ということです。それまでのコンサートホールでの演奏会のマナーに慣れた人でも、ライブハウスでどのように振舞えばいいのかわからない、という人が多かった印象でした。そもそも演奏中に声を出してもいいのか、身体を揺らしてもいいのか、手をたたいていいのか、ジャンプしていいのか、歓声をあげてもいいのか。コンサートホールでのマナーもそうですが、自発的に調べたりしない限り、ライブ会場でのマナーを学ぶ機会なんてほとんどないと思います。ライブ開演前にアナウンスされることは、ライブ中の禁止事項であることがほとんどです。(携帯電話の扱いについて、写真撮影や録画の禁止など)どのように盛り上がればいいのか、ということは誰もわからないので、結果的に周りの雰囲気になんとなく合わせて盛り上がらざるをえないことがしばしばだと思います。

いろんなお客さんがいて当たり前

演奏会における盛り上がりについて、「(日本の)ゲーム音楽ファンは演奏中に歓声をあげたり、身体を動かすことがあまりないけれども、実は心の中でとても盛り上がっているので(演奏者の人たちは)安心してほしい」みたいな言説があったように感じていました。
その説明は、半分あっているけど正確な指摘ではないと私は感じています。当たり前の話ですが、音楽をどのように楽しむのかは自由です。自分の好きな曲が演奏されているのを、目を瞑ってじっと噛みしめるように大切に聴くことだって、勿論アリです。それぞれの人たちが、それぞれの聴き方で楽しむのが当たり前、ということは否定も批判もしません。
じっと黙って聞いていた人たちの中には「盛り上がっていいかわからないからじっと聴くことを選択した人たち」も一定数いるのでは、と私は考えています。

「迷惑をかけないように」で動くもの

「集団心理」とか「同調圧力」といった言葉があります。私はこの感覚がライブの会場にも一定数働いているのではと考えることがあります。盛り上がりが過熱して、モッシュやダイブやハーコーなどが激しくなってしまうようなライブもあるし、演奏者がとても激しいエレキギターの演奏パフォーマンスをしても、身体一つ揺れずにじっと聞き入るライブもあると思います。パッと見ると対照的ですが、どちらも共通して「この場の雰囲気を壊してはいけない」という気持ちが多少はあるのではと思います。前者は「みんなが盛り上がっているから、盛り上がったほうがいい」後者は「みんなが音を立てないようにしているから、音を立てない方がいい」という考え方です。
勿論「他人に迷惑をかけないようにする」というのは、社会で生きる上でのお約束みたいなものなので、その心からくる行動は出来て当たり前だとは思います。
私が指摘したいのは「演奏中にとても静かに聴くことができている」という姿が、「演奏会の(そして人としての)マナーをしっかり守って、みんなで音を楽しむ状態になっている」というだけではなく、「よくわからないけど、他人に迷惑をかけてはいけない、としてのマナーがあるから、とりあえず静かにきいておこう」という状態もあるのでは、ということです。
そして、その「よくわからないけど、他人に迷惑をかけてはいけない、としてのマナーがあるから、とりあえず静かにきいておこう」という考えの人たちが、ライブ会場に集まった時に、「とりあえず周りの迷惑にならないように静かにする」という聴き方になるのでは、ということです。

自発的な盛り上がり

話が本題から逸れてしまいましたが、近年のゲーム音楽ライブでは、自発的に盛り上がる人たちが増えてきて、聴いている側もとても楽しく盛り上がってきていると私は思います。これはライブでのマナーが周知されてきているのか、主催者側からのアナウンスが功を奏しているのか、それともゲーム音楽ライブに足を運ぶ人たちの客層に変化があるのか、それともお客さんたちが自発的に変化してきたのかはわかりませんが、結果としてライブの雰囲気は少しずつ変わってきていると思います。
そして、その盛り上がって楽しんでいる様子が、お客さんたちだけでなく、演奏している人たちや主催者側たちにも徐々に伝わってきているような気もします。演奏者側からの煽りが増えたり、トーク中に盛り上げるようなことが増えたり、盛り上がる機会を増やしているライブが出てきたりなどなどです。

どこでどのように聴けばいいのか

私は今年、サラ・オレインさんのコンサートを観覧してきました。
「サラ・オレイン シンフォニックコンサート2019」に行ってきました
そのコンサートでは、事前にサラさんが「コンサートで演奏する曲に合わせて、みなさんで手拍子をしてほしい」といったお知らせがされていました。

実際に演奏された時に、会場からも手拍子が鳴ってとても心地よく、大きな拍手の中でサラさんがにこやかにご挨拶をされていたのですが、MCでは「もうちょっとできるんじゃないかな?」と感じるようなお話もされていました。(少なくとも私はそう感じていました、サラさんはサントリーホールで手拍子をした皆さんへ感謝の言葉をずっと述べられていました)
勿論、これはサラさんが事前にアナウンスをしたからこそ、このような手拍子が許されたのだと思います。けれどもサラさんはコンサートの終盤に、ロックメドレーとして、AC/DCやQueenの曲を披露して、自身もタンクトップ姿で力強くドラム演奏を披露するなど、「さぁ皆さんも盛り上がってください!」と言わんばかりの力強いパフォーマンスをされていました。(勿論演奏の終わりには、観客総立ちのスタンディングオベーションでした)
あの時、演奏を楽しみながら私はずっと考えていました。このロックメドレーの時に、歓声を出しちゃいけないのか、手拍子をしちゃいけないのか、We wii rock youを一緒に歌っちゃいけないのか、と。あれだけのパワー溢れるパフォーマンスをしてくれたサラさんたちに対して、こちらからそのパワーが伝わったとお礼を言うための歓声などはしてはいけないのだろうか、と。

色んな形があるはず

サラさんが示してくれたものへの答えはまだ出ないままですが、少なくともお客さんとしてどうしたら、自分が楽しみ、また一緒にいるひとたちみんなで楽しめるのか、ということを考える助けにはなりました。
少なくとも、私たちが出来るのは、チケットを手に入れることだけではないような気がしています。何より自分自身がライブを楽しめるため、そして一緒にライブに来た人たちが楽しめるために、事前に学んだり用意できることは、たくさんあるのではということを考えてゆこうと思いました。入り口は低く、その先の世界は広く、楽しむ人は大勢で、一人一人を尊重できる、そんなライブの姿が確かにあるような気がします。

今日はこんな感じ。

たくさんのゲーム音楽演奏会に参加して、たくさんレポートを書いてゆく予定です。