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オンライン掲示板上の話し合い

不発を承知でしかける

 ネット経由でオンデマンドの授業では,その場で質疑応答ができるような「双方向性」を担保する仕組みを考えないと対面授業の代替にならないという理屈に,文部科学省的にはなるらしい。
 しかたがない。なけなしのリソースとない知恵を絞って,オンライン掲示板上で学生に質問させたり話し合いをさせたりする,というやり方を考えた。Classroomにクラスを開設すると,クラスの表看板兼掲示板とでもいうような「ストリーム」というものができる。そこに学生から投稿させよう,質問が出れば自分もそこに投稿して答えよう,というイメージである。そこでの投稿状況も評価対象にする,ということにした。
 ただ,「質問して」「考えを投稿して」と求めて,学生がどのくらい動いてくれるか,これは未知数だった。だから保険のつもりで,ランダムに選んだ学生を「ストリーム当番」として指名し,率先して質問したり投稿したりするように,と求めた。しかし,これも機能するかどうかはわからない。
 しかしまあ,当番に当たったから仕方なくみたいな感じの投稿がぼちぼちと出てくるかもしれないが,70数人の受講者がどんどん投稿して整理に困ってうれしい悲鳴,みたいなことにはならないだろうとは思っていた。

最初の一人

 「教育と発達の心理学」という科目で,オンデマンドで音声つきのスライドを見られるように公開したのが5月18日。その中で,「よく『子どもの目線にたって』とか『おとなが押しつけるのではなく子どもの気持ちを大事にして』などといわれるが,しつけや保育や教育で,大人目線や子どもへの押しつけは必要か,必要だとしたらどのようなものなら許されるのか」という問いかけをした。
 それから反応をうかがっていたが,なかなか動きはなかった。そうこうしているうちに,学生から「ストリームってなんのこと」という質問が出たので,20日にストリームに「ストリームってここのことです」と投稿した。
 それからまもなく,一人の学生が,「どうしていいかわからないけれど,自分の考えを書いてみた」といってこのテーマについて投稿をした。最初の一人になるのには勇気が要ったと思うが,この人が口火を切ってくれたことで,その後,いくつかの投稿が続いていった。
 この学生は,うちに入学する前にちょっと寄り道をして,他の学生よりも少し年上の人だった。入試の面接のときに,入学したら他の学生に率先していろいろ取り組みたいと話していたような気がする。そのつもりだったかどうかはわからないが,結果的にその後の流れを呼び込んだという意味で,とてもありがたいことだった。

1日に20投稿

 そして,翌日までのあいだに,なんと20もの投稿があった。意外だったが,とてもうれしかった。
 その一つのきっかけは,「嫌いな食べ物のある子どもにその食べ物を食べるよう求めるのは押しつけか」ということを投げかけたある学生の投稿だった。その後の投稿の多くがこのことについて触れていた。その流れの中で私が「排泄のしつけは押しつけではないのか」と投げかけたら,その後いくつかの投稿がそれに触れていたが,「それは押しつけにはならないと思う」というものばかりだった。嫌いな食べ物を食べるように求めることと,オシッコをトイレですることを求めることで,押しつけになる,ならないが別れるとしたら,いったいなんの違いだろうか,ということに考えが及ぶ人が出てきてくれるといいな,と思いながら,いまのところはよけいな口出しはせずに成り行きを見守っているところである。
 おそらく,投稿しない,できない学生もいるのだと思う。そういう学生と,どんどん投稿できる学生との格差は,もしかすると広がってしまうのかもしれない。どこでそのフォローができるのか,まだよくわからない。
 だが,滑り出しは悪くない。この後も,学生が乗ってこれるような話題の投げかけができるといいが。

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