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山便り (6)

ファンタジーと現実

 1月16日の入試センター試験の日は全国的に積雪があり、浜松も例外ではなかった。17日の月曜日は通勤の車から始まって一日中スリップ事故があり、パトカーのサイレンの音が鳴り止まなかった。この辺りでこれだけの雪なら、山は相当、積雪があったに違いない。
 正月を過ぎた頃から、大寒の日は山小屋に泊まってみようと思っていたが、この雪で気持ちは固まった。月の光が当たって青白く照らし出される妖しげな雪を見ながら、囲炉裏で目刺をつまみに一杯やる。我ながら良い設定だと満足しながら当日を待った。当日は逸る気持ちを抑え11時を待った。路面の凍結が怖かったからだ。コーヒーをポットに入れ、カモシカの餌用のリンゴと柿と毛布を持ち、4WDの軽トラに乗って出発した。途中、夕食用の弁当と朝食用のパン、牛乳、それに目刺とちょっとしたつまみを買った。横山から熊に向かう県道に入ると道路端に雪が目立つ。慎重に運転して行ったが、橋の上で少しスリップしてヒヤッとする。山道は期待通りの積雪があった。

小屋に着くと、寒さが予想されたので、小屋の隙間に、コーキングを施した。炭火を起こし、カモシカの餌を板の上に置き、ベットに布団を敷き終わってから、ひとしきりテナーサックスの練習をしていると薄暗くなってきた。炭を足し、ランプに火を灯すとそれなりの雰囲気になる。足した炭に火が回ってくるのを見計らい、網の上で目刺を焼き、日本酒を鉄瓶に注いで燗をつけ、ちびちび始めた。目刺が焦げないよう裏返しながら12尾全て平らげた。酔いが回って来るに従い頭がズキズキ痛み出した。最初は酒のせいかとも思ったが、どうも違う。一酸化炭素中毒だ。酒も飲む気がしなくなった。するとランプが消えた。補充しようにもパラフィンオイルは空だ。真っ暗の中、トイレに行こうと立ち上がり歩き始めたら何かを踏んづけ転んだ。ベットの角あたりに脛が当たった。並みの痛みではない。血が出ている違いない。トイレから戻るとすぐ寝た。翌日は下痢になり4回トイレに通った。目刺があたったにちがいない。もくろみとは程遠い現実があった。


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