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山便り (序)

退職して2年目の夏、山を買う

  平成16年4月1日、指折り数えながら迎えた退職後の第一日目は、何時も通り6時半に起床して仏壇に手を合わせた。「今日から自分が思うように日々を過ごせる」という開放感で気分はルンルンであった。最初の頃は、退職の挨拶状やら身辺の整理に明け暮れていた。書類や本の整理をしていると、もう読むことはないだろうと思いながらも、なにか捨ててしまうには惜しいという懐かしさ、愛着の思いが湧いてきて、結局は整理しきれず、書庫を作ろうという思いに至った。7月に基礎。夏は長女の孫達と遊びに明け暮れ、秋から木造建築の本を見たり、道具を揃えて、発注した木材が来たのは10月末、完成したのは翌年3月だった。掛かった材料費はおよそ35万円。


書庫が完成した次は何をするかを考えていたが、結論は在職中から考えていた荒廃した山林の管理であった。どうせやるなら自分の山で、しかも少しは遊べる山と考え「近くに沢が流れている山」を探し始めた。知人に頼んだり、見に行ったりしたが、結局、天竜の奥地(熊の沢丸)に気に入った山林を見つけることができた。8月10日売買契約が成立する。
山林の概要
 場所  浜松市天竜区某所
 地目  山林
 面積  8840平方メートル(2640坪)
 植栽本数 杉  536本
      檜  532本
 購入価格:245万円 内訳土地代金    396,000(2640坪×150円/坪)
            立木代金 2,058,730(杉単価1000円、檜単価5000円)

 東向きの「大日陰」という地名の山に「日向川」という沢が流れているという矛盾したネーミングだと思うが、そんなことより沢には小魚、沢蟹が多く生息し、岩を流れる水音も気に入っての選定だった。落差数十センチの滝状になった沢沿いに平らで休むに格好の場所があり、ここが私の一番のお気に入りになった。
 この場所まで到達するのに、県道横山-熊線の少々広くなった路肩に車を止め、昔、山道だったというが、近年誰も踏み入った形跡もない所を300メートルほど歩かねばならない。山の中は、間伐材が放置され、歩くのも大変な状況だったので、まず、歩く道を整備することから始めた。


チェーンソー、混合ガソリンとチェーンソーオイル、鋸と鉈、そして弁当と水筒を持って山に入る日々が始まった。一ヶ月もすると毎日チェーンソーを持って移動する大変さを感じ始め、簡単な物置小屋がほしくなり作り始めたが、こうなると運搬資材も多くなる。加えて、蛇に遭遇してからは、秋マムシに出会ったら嫌だなと、ビクビクしながら山に入るようになった。こうなると、山へ行く楽しさは半減する。なんとかしなければと思い、自分の山まで林道を通す工事を森林組合に相談する。自分の山まで道を通すには、他人の山も通らなければならない。隣の山主の了解も得られ、翌年3月末に林道工事着工と決まる。それまでの間、林道予定地の間伐材整理、下草刈りをする。
 


 3月20日、林道の予定地上の立ち木の伐採が開始され、ブルドーザが入ると4月には出来上がり、車で行ける山となった。総延長135メートルの作業道開設工事及び障害木伐採事業費は537,320円であった。
 こうなると、山通いは楽しくなる。夢は膨らむ。ここからが「山だより」のスタートである。

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