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11月:とある男の手記 wrote by @uki3y


気づいたら、そこにいた。
広場にあるその木を見上げていた。

「夢でね、おおきな木を見るの」

どこかから、もういない君の声が聞こえる。
もう二度と会うことのできない、君の声が……。

──これはもう一度生きることを
書くことを決めたとある作家の手記──
○キャラクター

・男。
作家。見た目年齢不詳で声も若め。(実際は40代以上のイメージ)
どちらかというと現実主義で、目に見えるものしか信じないタイプ。


・彼女。
男の恋人。故人。
事故で突然亡くなる。
ふわふわとしていて、不思議な言動も多かった。





△男の手記という形なので、全体的に淡々とした雰囲気で。


男-①

どこの町のことなのかは、あえて記さないでおこうと思う。

その必要がないし、そもそもわたし自身がもう、その町がどこにあったかわからないからだ。

気づいたらそこにいたし、地図で場所を確かめたりもしなかった。

知る必要もないと、そう思ったからだ。

▼シナリオ最後のほうでトーンをすこし明るくするため、最初は気持ち低めに。


彼女ー①

夢でね、おおきな木を見るの。

△回想の声のため、すこし効果をかける。


男-②

彼女がそう言っていたのは、いつのことだっただろうか。

わたしの書いたものが、まだほとんど売れていなかった頃だった気がする。

もうずいぶんと昔のことのようだ。


彼女-②

知らない場所のはずなのに、でもとても懐かしいの。

気づくと足元に猫がいてね。ついていくと、広場のほうに向かっていくの。

そこにね、とてもおおきな木があるのよ。

△同じく効果。


男-③

もういない彼女が何度か言っていたことを、わたしは特に信じてはいなかった。

けれど否定もしなかった。

彼女には彼女の、彼女にしか見えていない世界があることを、わたしはわかっていたからだ。

だからそれでよかった。

そしてそれだけのことだったはずなのだが……


△長めに間をとる。


男-④

彼女が事故で突然いなくなってしまったとき、

しばらく経ってから思い出したのはそのことだった。

だからといって、そんな木があるなどとは思っていなかった。

ただの彼女の夢の話だ。そう思っていた。

けれどわたしは、気づいたらおおきな木を見上げていた。


△場面転換のイメージ。BGMを変えるなど。

 

男-⑤

いったいどうやってたどり着いたのか。

そもそもどこのどんな町なのか。

どうして、どうやってここを選んだのか。

なにもわからないまま、なにかに導かれるようにして、わたしはそこにいた。


男-⑥

静寂の中でわたしは木を見上げる。

木もわたしを見下ろしている気がする。

広場の中を、秋の冷たい風が駆け抜けていく。

その風がふと赤い葉を揺らしたとき、わたしは気づいた。

▼ここは回想のイメージなので、すこし臨場感がほしい部分。


△ざあっという、一瞬強く吹く風の音。


男-⑦

……そうか、君はここにいたんだね。

▼ここだけは実際に呟いているイメージで。


△長めの間


▼ここからは、彼女に語りかけるイメージで。


男-⑧

突然の事故で君がわたしの前から消えてしまったとき、

わたしは自分もいっしょに死んでしまったような気さえした。

なぜならわたしはそのときから、書くことがまったくできなくなってしまったからだ。

わたしにとって書くことがすべてで、

書くことが生きることとほぼ同じ意味だったのだ。

それができなくなった時点でわたしはもう、生きているとは言えなかった。


自分の目にうつるものをひたすら書き続けてきたわたしが、

ただの一文すら書くことができなくなってしまった。

そのときにはじめて、自分にとって君の存在がどれだけ大きなものだったかということを知った。

書くことができていたのは、生きることができていたのは、すべて君がいたからだったのだと。

それを思い知らされた。


だからそんな君を奪ったこの世界を、わたしは恨むしかなかった。

なぜ君はいなくならなければならなかったのか。

なぜ君を、わたしの前から消してしまわねばならなかったのか。

そう問いかけ、この世に憎しみを向けることしかできなかった。

それだけがわたしに残されたできることだったのだ。

けれどどれだけ憎もうとしても、どれだけ恨もうとしても

結局たどり着くのは、最後に思い出すのは君のことだったんだ。


彼女-③

あのおおきな木にね、吸い込まれたところでいつも目が覚めるの。

でもべつに怖くはないのよ。

起きたときも、なんだか胸があたたかいような気がするの。

だからわたし思うの。

きっとあそこはわたしがいた場所で、そしてかえっていく場所なのよ。

だから、だからね……

△効果をかける。


男-⑨

そう言っていた君の言葉を思い出したとき、

わたしの身体は勝手に動いていた。

細かいことはなにも覚えていない。

気づいたら木を見上げていたのだ。

赤い葉を風に揺らしている、とてもおおきな木を。

そしてなぜか確信していた。

君が言っていたのはこの木のことであると。

君はここにかえってきていたのだと。

そう、なぜか確信していた。


△木の葉を揺らす風の音。


男-⑩

人に言えば、おかしな奴であると言われることも疑いようがない。

けれどわたしにとってはまぎれもない事実であり真実なのだ。

それでじゅうぶんだった。

それだけでじゅうぶんだった。

君はまだ、この世界にいたのだ。


△長めの間。場面転換のイメージ。


男-⑪

どれだけのあいだその木を見上げていたのか、気づけばあたりは暗くなりかけていた。

わたしは町をあとにするとき、その木に向かってまたくるよとは言わなかった。

その必要も、そのつもりもなかった。

君もそれを望んでいないことを、わたしはわかっていたからだ。


△長めの間。


男-⑫

さて、まずはあの木のことを書くとしようか。

忘れてしまわないうちに、忘れてしまわないように。

君がかえっていった、君と同じ名をもつ、あのとてもおおきな木について。

それこそが、わたしが生きるということなのだから。

▼気を取り直して、という感じで。

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