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木下さんと暮らしと建築社の建築

一つは長野県佐久市にある木下建工の本社ビル。写真のような地方にある建設会社の本社である。木下さんは自分の家を高断熱高気密にしたことで快適な暮らしを手に入れた後、会社が寒くてたまらなくなってしまった。そこで会社をなんとか暖かくしようと自宅を設計した「暮らしと建築社」の須永さんに頼んで会社の設計を始める。
そこでできたのがこの本社ビルである。住宅の設計をしていてわかるのだが、住宅と同じような断熱性能をとり、太陽光発電を載せることで、正真正銘のゼロエネルギービルにすることができる。まさにそれを具現化したのが、この建物になる。
住宅3軒分だが、それをまとめるので、表面積がへり、その分の断熱材の量も少なくなる。
学校の教室やオフィスなどは、人数が多くなり、人の内部発熱などは増え、必要な換気量も増える。そこに関しては、CO2センサーを設け、それにより必要であれば、換気扇が回って換気をするようなシステムを入れている。さて、設備でガチガチなのかとも思えば、そんなことはない。家庭用にエアコンが何台かついているだけで指して特別なものは見当たらない。
さて、デザインに関しては、木下さんがまず「美しい木造の建物」をオーダーしただけあって、とても美しい。中に入ると周りの風景が切り取られ、その風景の中で暮らしている(仕事をしている)ようだ。ガラスは全てトリプルなので、窓際にいても快適。南北に開けられた窓から風が通り抜ける。環境だけを考えた建物だと、南に大きく窓を開けるのがセオリーだが、この建物の正面は北側。それなりの大きさで窓が開いている。建物にとっての正面(ファサード)を単なる性能のためだけに小さくせず、大きくとり建物の良い佇まいを演出している。

南側の景色を取り込む大きな開口部
2階から見下ろすオフィス空間

さて、もう一つは「暮らしと建築社」と木下さんがオーナーの賃貸住宅、六花荘である。

森の中の住宅の佇まい
庭はまだですね。


一つの棟からの眺め
Uの字に回ったキッチンカウンター


アパートでありながら、太陽光発電を積み、その一部が使え、高断熱高気密のアパートである。
UA値は0.1代。屋根にも壁にもきちんと断熱がされている。コストを抑えながら、デザインを優先させて、この建物ができている。軽井沢に教育を考えて移住してくる家族のための賃貸住宅で近隣の相場もそれなりに高い水準に合わせられている。庭を持ち、自然の中での暮らしを考え、でも、家は高性能。こういった暮らしが実現できることがわかれば、高断熱の賃貸という可能性が見えてくる。空間的には非常にシンプルだが、回遊できる動線、ロフトなどの高さのある魅力的な場所など、暮らしてわかる楽しさなども想像できる。


家賃やその利回りだけでは、この仕様はできないというが、まずはこれを現実的に作って見せたことが、軽井沢の建築のレベルを押し上げることは間違いなく、単なる集合住宅ではない、まちづくり的な要素を持つものとして考えた方がいい事例だと思う。

脱炭素社会というと、抽象的でわかりにくいものだが、こういう建物が増えていきつつ、エネルギーの自給できること、快適な暮らしが実現できることを考えるといろんな可能性が広がっていくように思う。

プロの皆さんはこちらをご覧ください。
諸元は以下のとおり。

木下建工本社ビル
建設地 : 長野県佐久市下小田切
階数 : 地上2階
構造 : 木造
敷地面積: 2323.42㎡
建築面積: 393.34㎡
延床面積: 389.61㎡(310.53㎡ + 79.08㎡)
建蔽率 : 16.92%( 60%)
容積率 : 16.76%(100%)

設計建築: 暮らしと建築社
設計構造: yAt構造設計事務所
施工 : 木下建工株式会社
(換気): エコモ株式会社

太陽光パネル19.2kW 但しパワコン5.5kWx3台で16.5kWです。

断熱は基礎がちょっと変わっていて外周部分はXPS外側100mm+内側50㎜補強、スラブ部分は内側XPS100㎜
屋根付加断熱:ポリスチレンフォーム断熱材3種bA 165㎜
屋根充填断熱:吹込用グラスウール断熱材 35K 300㎜
壁付加断熱 :高性能グラスウール断熱材 16K 105㎜ 
壁充填断熱 :高性能グラスウール断熱材 16K 105㎜
Ua値0.238

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