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あり方検討会でできたこと、これからのこと

8月10日であり方検討会が終了した。2月24日の第5回再エネタスクフォースから始まったこの検討会では、国交省だけではなく、経産省、環境省も加えて、3省の座組みで始まったこの検討会に参加して、いろんなことが見えてきたので、ここに書き留めておく。

評価できることは以下のとおり。

①公開の場で議論。(タスクフォースとあり方検討会)
データが公開され、アーカイブできている。これで何を誰がどう言ったかが記録される。あとから見直すこともできる。

②現在、現実的な範囲で最大限やろうとしている。実際にそれ以上になると大きなハレーションが起きて全てがダメになる可能性があるので、、、。という話を聞いた。それはそうだと思う。
そこの見極めはこちらは流石に責任を持てない。一方、官僚主導では無理でも、そこに政治的判断が加わることもあろうかと思われる。
だから、最初のステップとしてOKということであって、これで全てOKという話ではない。最初のステップは、

「適合基準の義務化」そして、その前倒しと積み増し。
①鳥取のように断熱等級の複数段階の引き上げ。
 内容的には、HEAT20のG2は断熱等級6、G3は断熱等級7へという設定とする。
②太陽光(以下、PV と略す)発電をZEHとともに、新築の60%に載せるということ。
③住宅における太陽光発電の責任を持つのは国交省

以上である。
これは素案に書き込まれる。
さて、わかったこと。
国交省はPV、断熱ともどちらもやりたくないというスタンスが明確だった。

なぜ、国土交通省は断熱をしたがらないのか。

理由1)中小工務店が未習熟だから。
理由2)内閣法制局に止められた。(個人の財産を制限するのはけしからんということらしい。)
理由3)確認申請の業務が煩雑で大変になり、対応が仕切れなかった。

この3つがよく言われる。
理由1)は、私自身も小規模な設計事務所の経営者として思うが、中小工務店を十把一絡げにして、未習熟だと言われるが決めつけないでもらいたい。少なとも、うちの事務所は未習熟ではないし、付き合っている工務店もレベルが高い。一般的に、これから需要が減っていくことを考えると、勉強せざるをえない。大概レベルは高い。もちろん、中小工務店でも未習熟なものもいる。それはそれとして、高いレベルの工務店のも多くいるのは事実だ。そうだとすると誰かが私たちをスケープゴートにして、本人たちが非難を浴びないように隠れているのかもしれない。

理由2)内閣法制局に止められた。
個人の財産を制限するのはけしからんということらしい。市民が、自分たちで思うように建てたいのを制限されてはダメだということだ。この国では、敷地の中に建つものに関して自由な建物を建てることが認められている。地球の温暖化に対して、私有財産を制限することができるかどうかポイントになってくる。そこで、十分周知され、ある程度以上のものになっているので、義務化するというロジックだ。適合基準の建物はすでに9割を超えていて、義務化しなくてもほぼそうなっている。あえて、義務化をするのである。
今回は、関係団体からも反対は出ていない。しかし、以前の時は、NGと判断されたとのこと。国民全員で温暖化防止に望まなければ行けない局面であるのは確かだ。

理由3)
義務化に伴い、大幅に業務が増える対応ができていなかったというのが、その理由だ。実は姉歯事件の際、構造計算において、クロスチェックをした結果として、業務がスタックし、現場の着工ができなく、これをもって、「官製不況」と言われたことの繰り返しになるということである。

これら理由のどれが正解かはわからないが、複合的に絡んでいるのかもしれない。


それにしても、断熱には消極的である。
今回、鳥取県などが、HEAT20 G1、G2、G3の頭にTをつけて、T-G1、T-G2、T-G3とつけたり、長野県がG2レベルの義務化を視野に入れていることから、その等級を複数積み増すという表記が付け加えられた。

かなりな勢いで等級を作らない意思を感じる。これには、ハウスメーカーがどうしても嫌だと反対しているらしい。型式認定で対応しているハウスメーカーはそのグレードを上げられると対応が難しいという。これは未習熟だと言われる「中小の工務店」のレベルの話ではない。
表向きは脱炭素社会を目指すと言って、RE100やESG投資を受けているメーカーがそんなことを言っているなら、ありえない話である。意外と根が深い話である。地方の進化は、止まらない。
それよりも、断熱性能のグレードを上げないと国交省の担当分のCO2の削減ができなくなるという事態になりかねない。自分の首を絞めていることに気がついていないのか、それともこのままで大丈夫と思っているのかよくわからない。

国交省は大きな省であり、多くの現場を持っている。一度、やる気になれば、脱炭素化に向けての施策でリードすることができる。日本のエネルギーの3分の1のエネルギーを使い、その削減についての技術はほぼ確立している。ものすごい有利なポジションにいるのだ。次世代を担う若い官僚はぜひ、この課題に取り組んで欲しいと思うほどだ。(脱線するが、住宅だけではない、港湾や空港など広い施設を持っている。洋上風力にするまでもなく、港湾での風力のポテンシャルはめちゃくちゃ大きい。また、非住宅の業務における公共建築の割合も相当数ある。)

住宅の新築にこだわる理由は簡単だ。今あるストックの温熱環境が十分ではないからだ。冬に暖房を切って寝て、起きると8℃しかないというのが、今の適合基準の断熱性能だ。成熟した先進国の住宅のレベルとしてはあまりにお粗末ではないだろうか。
そのレベルから、70万円積み増せば、G2レベルは手に入れることができることが今回の検証でわかった。一言で言うと、窓の性能だけをあげれば良い。これだけの変更でまるで違うレベルの生活ができるのだ。G2であれば、翌朝の温度は13℃まで改善される。その70万円の積み増しも、年間の光熱費が安いので、10年ほどで元が取れる。この積み増し分が絶えず問題にされるが、ローン枠などを少し広げるだけで、問題はなくなるはずだ。

それにしても、地球温暖化対策に対するスタンスは消極的だ。この態度が国益を損ねていることに意識はないのだろうか。

長野県が国より先んじて、NDC60% を目指し、具体的なアクションを起こしている。その目的を担当者に聞いたところ、即答で、「長野県の持続可能性」のためと答えが返ってきた。
これをきっかけに、雇用や産業を起こし、新しいライフスタイルで暮らすためとのことだ。
地方の方が人口減少、人口流出に熱心だ。そうしないためには、仕事を作るしかない。それが分散化エネルギーと高性能な建設業ということである。紫波町の事例もそうであるように、建設会社が作れるソフト産業のポテンシャルは想像以上に大きい。これに気がついた自治体が鳥取県であったり、長野県だったりする。菅内閣が掲げるグリーン成長戦略そのものなのになと思う。(ホームページ見たら、これも国交省じゃなくて、内閣官房と経産省みたいですね。)

また、この検討会でわかったのは、太陽光パネルについての監督官庁が今まで曖昧で、省の縦割りの隙間に落っこっていたことがわかった。
経産省の積み増しの量も、1年で達成できるレベルの低いもの。屋根のポテンシャルを甘く見ているというしかない状態である。国交省に至っては、完全に計算からも外していたが、最後に、「国交省が監督官庁である。」と明記した。
ならば、予算も含めて移管するのか、あるいはどうやって経産省とともに協議するのか、具体的な道筋は表されていない。これも引き続き、チェックし続ける必要性がある。さて、それも含めて、2030年から屋根の60%目指すという目標は、意欲的とも見えるが、実はこれは元々の目標を相当後退させている。2030年からは、「新築の平均でZEH、ZEB 」、すなわち新築の100%に太陽光発電を載せるというのが、2010年からの共通の目標だ。60% というと増えている印象があるが、実は40%減らしているのだ。今回、義務化といわれて、初めて考えるからこうなる。
しかし、現実的な話をするとここから始めるしかないのかもしれない。カリフォルニア州が同じような制度を行なっている。
再生可能エネルギーの導入に関しては、京都府、京都市が、説明義務化をこの4月から実施している。京都議定書を作った京都の意地なのかもしれないが、非常にいい取り組みだと思う。今後、自動車がEVになり、V2Hが一般的になるとPVは爆発的に増えていくだろう。簡単にいうと、お得で快適だからだ。

さて、本題に戻ろう。

最初にも書いたが、今回の検討会は全て公開で行われた。公開プラスアーカイブされている。いつでも誰でも見ることができる。これは、民主的なプロセスとして、本当によかったと思う。以前の審議会では委員がデータの公開を要求しても、データが出てこなかったという。それでは、その施策の妥当性が測れないはずだ。

「大丈夫だから、大丈夫。」というのは、ただの「メクラ判をおせ」というのに等しい。
今までそうやってきたのかと思うと、恐ろしい気すらする。委員会や審議会はデータに基づき、将来を予測すべきである。今までは、何を一体していたのだろう。
さて、ここまでは評価したことを書いた。

「まずは最初の一歩として、色々決めることがあるのはわかった。始めましょう。」ということです。


さて、じゃあ、評価できないことは、たくさんある。
データに基づきの、データといじり方が大きな問題があるのだ。

1)2050年のあり姿をグラフで示しているが、無断熱とS55年基準がきれいになくなっている。ほんとかな。実は、こういう試算をするとき、排出量の多いダメなやつを減らす方が、性能の良いものを積み増すよりも確実に減っていくということを最大限活かしている。2050年の将来のことなどわからないという話はなしにして、果たしてここまで減るんだろうか。
国立環境研究所のデータ見ても、ここまではきれいになくなっていない。

2)毎年の着工件数が、BAU(無対策)の時より、1割も多くなっている。これは、規制を厳しくしたら、着工件数が増えるとでも言っているのだろうか。そんなわけないじゃん。これからはどんどん減っていくわけだし。

3)あと、全ての施策が始まるのが、2030年以降なのである。どういうことかというと、2030年までのNDC46%には寄与できませんということである。
エネルギー基本計画では、建築分野に関しては、住宅に関しては66%削減ということが言われているのと、全然整合できていないということになる。

そうなってしまったのはなぜか。
単純に2020年の義務化の見送りのつけがここに出てしまっているのである。

そして、この問題は、IPCCの報告によると、10年前倒しで1.5℃の温度上昇が起こると予測されている。

さて、どうしたものか。
いろんな施策をできるだけ早く前倒しにするしかない。というのが、現在の状況です。早くしないと間に合わないという状況です。


一方、民間の一設計者としては、今から作る建物は2030年を待たずして、ゼロエネルギーにして、住む人に快適な状況をつくるしかない。単純だけど。

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