足がすくむほどの高さがある。足場と壁が崩れた先は視界が開けていて

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地球の輪郭さえも見える。もし、ここが成層圏で上空5万kmなリアルな世界であるのなら気温はマイナス10度以下にて凍える様な寒さで、かつ酸素も無くてとてつもなく苦しい思いをするだろう。痛みまで再現される世界とはいえあくまでもゲームだ。まさか死ぬ程の苦痛体験まではないだろう。と思いきや流石10億人のプレイヤー人口がいる超人気ゲーム。どこまでもリアルだった。
内外との気圧差でフロアの空気が全て抜けていく。まるで宇宙空間にて事故が起きて宇宙船に穴が空き、空気が全部抜ける様に、フロアにいたプレイヤー達は皆、空へと放り出された。

無酸素状況と温度のない世界が容赦なく襲いかかかる。
肺への容赦ない刺激。全身への寒さ。直ぐにでもログアウトしなければ全身が氷つき、ログアウトする為の思考さえも奪われるのだろう。
この苦痛に耐えるということは氷ったまま地面に激突してゲームオーバーするという意味だろうか?
思えばまだ一度もゲームオーバーを経験していないのだが、とことん痛みが生じるゲームだ。さすがに死ぬ程の痛みまでは体験するとは思えないが万が一という事もある。ゲームの機の不具合で自分だけが地獄を体験するかもしれない可能性まで考慮すると、苦しみに耐えるリスクは無尽蔵の危険可能性を秘めているだろう。

多くのプレイヤーが同じ事を考えている様子でログアウトして視界から消えていく。
もしかしたらプレイヤーの中には落ちた地面の先にこそ救済措置があると思いログアウトをギリギリまで送らせたり、いっそ地面に衝突するまで耐えるプレイヤーもいるのかもしれない。清十郎もログアウトを遅らせようと試みるが、その過酷さについては知らなかった。成層圏はオゾン層反応にて熱が産み出されていて比較的温かい。暖かいといってもマイナス10度あり、成層圏の下(雲)にまで到達すればマイナス40度になる。そう、落ちれば落ちるほどより過酷さが増していくのだ。宇宙服でも着てない限り到底耐えきれるものではなく、清十郎もまた多くのプレイヤーと同じように1分と待たずにログアウトした。

ちなみに雲の上に存在する成層圏が暖かいのはオゾン層の作用もあることながら、太陽の光は『白色である雲』に衝突するとある程度が反射され宇宙側へと戻っていく。その際の反射による熱にて雲の上は暖かい構造にもなっている。

また成層圏は空気がないので落ちる際は空気抵抗なく加速して音速も越える。清十郎は苦痛に耐える事に精一杯で音速の自覚まではできなかった。

ログアウト後、清十郎は超絶ダイビングの刺激が忘れられないでいた。息の出来ない苦しみと凍える寒さもよりも、音速を越えて落下する刺激の方が勝っていた。苦しいけど内心もう一度体験してみたい。一方でその余韻に浸りながら、しばらく呆然としていたい感情にもなる。清十郎はゲームの世界で息子を探す目的をしばし忘れた。

気づいたら寝ていた清十郎。もう朝であり仕事に出かけなければならない。

テレビをつけ、ふと目をやると

「若者達が集団飛び降自殺をして意識不明になる」という見出しのニュース

清十郎がそのニュースの意味を理解するのはまだ先の話。


ダンジョンは天空の成層圏にあった。そこから脱出する為には何らかの方法が必要。
清十郎は攻略サイト等で答えを調べる気にはならなかった。折角だからゲームとしての難易度を楽しみたかった。

今日も清十郎は視認できないゴーストをタイマツで追い払いつついたが、ふと疑問した。ゴーストを追い払いつつも通路の奥へと追い詰められるとしたら、そのゴーストはどうなるだろうかと。もし火を恐れたゴーストが壁際に追い詰められてて困っているのなら…もしゴーストに人のような感情があるとしたら…

清十郎はゴーストに対してタイマツでの攻撃を加えずに語りかけた。

「もし人間の言葉がわかるなら返事をしてくれ、言葉を発することができないのであれば、私に触ってくれ」

念のため、松明は遠くに投げ捨てた。

一分程して何かに触られた気がした清十郎

試しに「持ち上げることはできるか?」と問いかける

少しだけ浮かぶ。浮かんだ時間は凡そ3分ほどだった。

結論からいうとゴーストとはコミュニケーションをとる事が可能だった。もしゴーストに乗り、ゴーストが大人しく言う事を聞くのであれば、ゴーストの協力を得て安全に地上へ着地できるかもしれない。

しかしゴーストが裏切らない保証はない。また空気の無さと寒さにどう対処するかの課題さえクリアすれは


清十郎はふとゴーストは何を食べて生きているのだろうかと疑問した。ゲームのプログラムだから実際に食べる訳ではないだろうが、このゲームのクオリティはやけに高い。キャラの生活スタイル等細かい設定まで決めてあるかもしれない。清十郎は見えないゴーストを視覚化しやすくする為に、ゴーストに自身の防具を取り付け、ゴーストの位置を把握できるようにした。

「見えない敵に警告する。これより私は何もしないから逃げてもいいぞ」

宙に浮く防具(ゴースト)は去らなかった。清十郎に守って貰えるのだと勘違いしたのかすり寄ってくる。

見えないゴースト。聞こえないゴーストだが『清十郎だいすきー!』と言って慕っているような気がする。

仲間になったゴーストと共にダンジョンを探索していると宝をいくつか見つけた。

~取得アイテム一覧~

魔法の防具

魔法のマント

魔法の服

魔法の紐(ロープ)

HP50%の回復剤2つ


魔法のマントは装着すると、自由自在に空を飛べる。ゴーストに体を支えて貰わなくても地上に安全に降りることができるアイテムだろう。

魔法の服や防具を装備しているとタイマツの火を近付けても熱さを感じにくい。もしかしたら外の寒さにも対応できるのかもしれない。

魔法のロープは伸び縮みをする。こすると伸びていき、引っ張ると縮む


ダンジョン内からは結局地上へのルートは見つからなかったから、このダンジョンは空に浮いている事になるのかもしれない。

魔法の服とマントを装備し、外に飛び出してみる。

外の景色は時と共に変化してるのが確認できた。、大地が自転運動している。


地上に降りる前にやるべきことは、パーティーを再度作ることだろうか。

ダンジョンで最初に出会ったプレイヤーに連絡をとる清十郎。しかし今日はログインしてないようで、音声メッセージを飛ばした。 音声メッセージは、プレイヤーの携帯電話と連動していて、リアルの世界の本人への電話に繋がり、応答がない場合、留守電に録音される。


たしかあの人のハンドルネームは……

「もしもし、清十郎です。地上に降りる方法がわかりましたので、またパーティー組んで冒険しましょう」


清十郎はあえて時間は指定しなかった。仕事で時間に追われる束縛生活なのにゲームの世界でも時間に束縛されるのはごめんだからだ。相手から時間指定してくるならまだしも、そのとき清十郎が暇してるとは限らないし、相手に気を使って都合を合わせようとするのも疲れるだけだ。過去、ネットゲームで人間関係の煩わしさを感じてドロップアウトした経験が、今の清十郎を作り上げている。だからこそ軽いノリのプレイヤーになったのかもしれない。清十郎は自己分析しつつ、物思いにふけった。


ふと、思ったのは、もしかすると息子が引きこもりになった理由も、人間関係の煩わしさから?主な理由になるだろうか?

かもしないが、そうだとしても……


清十郎が家にいる間、部屋から一歩も出てこない息子。清十郎が外出したとたん、部屋からでてきて、わめき散らすが、その奇行が納得できない。

何が息子を獣の様に変貌させているのか、清十郎自身にその原因があるのか、今の清十郎には、明確に出せる回答が見つからなかった。

専門家たちは、まるで全てを知っているかのような達観した態度をしていたが、その説明をされても理解はできなかったし、共感もできなかった。

清十郎はやはり息子が引きこもることを納得できないでいた。頭の中がもやもやして、ストレスが溜まってくる清十郎は、パーティーの到着を待つことなく、飛び立った。



清十郎は魔法のマントを羽織り、空へ舞う。飛び方は思考と連動していて、ゴーストに任せるよりも、遥かに効率的に空が飛べる。

ダンジョン内では最大スピードがどの程度出せるのか分からなかったので、加速していく。どこまでも加速する。
スピード限界がない


海を超え、山を越え、砂漠の砂を巻き上げ、惑星を一周するまで1分も掛からない。惑星が小さいならまだしも、そのような感じはしなくて。体は重力の影響や大気の影響を受け付けない。風を切り裂くスピードでもドライアイにならないし、雨に濡れようが滝に打たれようが痒くも苦しくもない。マントにはあらゆる防御的抵抗力があり

スピードに乗せて岩などを殴ろうものなら、豆腐を殴るようにバラバラにできる。山を殴ろうものなら粉砕して大爆発を起こす。海の中に飛び込んでも息をしながらスーパースピードで動ける。溶岩の中も平気で入れる。モンスターにタックルしようものなら突き抜けるか、遥かに彼方にふっとばせる。清十郎は開放的な気分に酔いしれる。

マントの性能は早く飛ぶことに対応して、あらゆる支えの機能がある。たとえば速度に比例して動体視力の機能も向上していて超スピードで誤って鳥や山にぶつかることもない。スピードに合わせて反射神経、思考速度も向上していて、音速を越えたスピードに変幻自在に旋回しトリッキーに動き回ることができる。

清十郎はこのスピードに完全に惚れてしまった。ゲームの世界に飲み込まれてしまったといっていい。 一生このゲームの中で暮らしてもいいとさえ思ってしまった。

その時プレイヤーからの音声メッセージが届く。

「もしもし、竹内です。今ダンジョン内のあのフロア前に居るのですが……」



音声メッセージを聞いてスピードの快楽から我に返った清十郎。そして思い出した。
現在深夜の1時。これ以上のプレイは仕事に差し支える可能性がある。清十郎はマントを脱ぎ竹内に渡した。

「悪いけど、これから仕事でログアウトしなければいけない。このアイテムを貸すから役立てて欲しい」
そう言って清十郎はこの場から消えた。

竹内は気付いた。このゲームは案外孤独なゲームのなのだと。
元来、ネットゲームといえば、友達とワイワイやるものである。

自分の息子は、たとえ引きこもりしててもネットで友達を作ってて、ある程度の幸せを得てるはずだろう。と竹内は思っていたが、もしかしたらネットですら一人で孤独なのかもしれない。息子を不憫に思う竹内だった。


【竹内視点】

なんじゃこのマント! ぱねえっ!

竹内は大はしゃぎで、暴れまくった。


世界の半分を破壊尽くして気付いた。

破壊尽くしたら、どうやって息子を探せばいいのだ?


ふとした疑問である。

もしかして、いや、もしかしなくても、この惑星に息子がいないとしたら?


竹内は宇宙に飛び出した。マントのおかげで、光を超えるスピードが出せる。

この宇宙のどこかに、息子がいるのか?

竹内はいろんな惑星を見回ったが、生物が住まう星はおろか宇宙を飛び回ってるかもしれないプレイヤーも見かけない。


広い宇宙で一人の人間を探すなんて米粒に混じった一匹のミジンコを探すより遥かに見つけにくいだろう。目視で見つかる筈がない。


竹内は考えた。もし息子が同じマントを装備しているなら……


竹内は銀河の中心に飛び込み、かき回し、銀河を爆発させた。銀河は塵となり拡散した。


竹内の目的は、この爆発を他プレイヤーに目撃してもらって、自分の存在に気付いて貰うことにある。そうしてゲームの攻略のヒントをプレイヤーから教えてもらおうとの考えたのだった。


しかし、誰も来ることは無かった。いくつ銀河を爆発させても、誰からの返事もない。

困った竹内。あれこれ考えるも答えが出ない。
やけになってスピードの限界に挑戦した。光の速度の何兆倍を超える速度でスピードを出した。すると突然、目の前が眩しくなる。視界が光で一杯になる。


竹内はそこが何処だ分からなかった。宇宙はどこに行ったのだろうか。


竹内は白い世界の中で、さ迷い続けた。


もうどうしていいかわからない竹内。


諦めてログアウトボタンを押そうとしたそのとき、視界のはるか彼方に黒い点が見えていたことに気付いた。


竹内は黒い点に向かって突き進んだ


しかし、

どれだけ、進んでもとどかない


黒い点に近づいてる実感がない。もっとスピードを上げなければ。もっともっと

もっともっと

もっともっと


もっともっと


頑張り過ぎて疲れた竹内。

そろそろログアウトして、このことを清十郎さんに相談しよう。

攻略サイトによると、ダンジョン内にログインしてすぐ、真下の地上に降りると、ちょうど街の上にでられるそう。

その街は特殊なバリアが張られている設定にて、魔法のマントからの破壊攻撃も受け付けない。オンライン上のプレイヤーたちが必然的に集う街になっている。

~街~

街の風景は普遍的である。和風洋風、中世ヨーロッパ調か、近未来型なのか、プレイヤーの好みに合わせて脳内に投影される。竹内がSF未来型な世界が好きなら、竹内にはそう見えるし、清十郎が江戸時代が好きならそう見える。プレイヤーそれぞれ見ているものは違えど、不自然なく互いに干渉もしあえる世界、それがこの街の特徴になっている。

「らしいですよ? 竹内さん」

清十郎は公式サイトを見ながら答えた。


「清十郎さん、あれは、なんでしょうか?」


清十郎には空飛ぶドラゴンに見えるが、竹内には宇宙戦艦に見える。それぞれモンスターとの戦闘に役立つ存在アイテムとして、互に違和感なく受け入れられる様に配慮されている。

もし清十郎が、「あれはドラゴンだよ」と竹内に言っても、翻訳されて竹内には「あれは宇宙戦艦だよ」と聞こえる


街は盛大なパレード状態で、初心者、いわゆる新規のプレイヤーを盛大に祝うようにプログラムされている。美味しい料理や酒がたくさん用意され、美男美女が歌ったり踊ったりする。街に入って直ぐ、清十郎と竹内は花束を持った子供達に迎えられた。


街を歩いていると、人々が広場に集まってる。求人広告を見ているようだ。


この世界には独自の通貨があるらしく、アイテムを売買したり、バーチャル子供を教育する家庭教師のバイトがあったり、保育園があったり


衣食住の必要性がないバーチャルな肉体だが、衣食住ビジネスがあるようで、

革新的デザインの服をつくったら、売れるらしく、美味い料理を作ればそれも売れる。土地や家はただ眺めるだけのコレクション的な意味しかないそうだが、それでもオカネが動いている。


清十郎は

バーチャルなモノ作りについて、少し興味があった。物理法則が現実世界とは異なるから、変わったものが作れるらしい。

武器や魔法武具、果ては魔法そのものまで、このゲームの世界で有り得る事は何でも可能であるそう。

清十郎は街を散策する際に、連れてきた仲間がいる。竹内にも話してないがゴーストが清十郎の頭の上に乗ってる。ゴースト仲良くなる過程で、ペットの様に懐かれたのだが、その間にいろいろと気付いたことがあって……

ゴーストとはテレパシーで会話が可能なのだ。強く意識を集中させると、ある程度簡単なコミュニケーションができてしまう。

今はゴーストが迷子にならない様に頭の上に乗せている


またゴーストは物体を、すり抜けられるらしく、これからの街の探索に役に立ちそうである。


清十郎は大衆の集まりに気付いた。大衆は広場で求人広告見ていた。

内容は、この世界で引きこもりの子供の探している。というものだった。他には魔法武具の開発手伝い。ドラゴン退治。ゴーストハントのいるパーティーを募集等々…


ゴーストハントなる仲間募集内容には、「森の中に幽霊屋敷があり、その屋敷の探索に能力を貸して欲しい。」と書かれている。面白そうだが、竹内は幽霊を怖がり絶対に嫌だという。

ひとまず、引きこもりの子を探してるプレイヤーへとメッセージを送っておいた。

内容は
自分たちと同じ境遇である同士であること、引きこもり同士がパートナーを組んでるかもしれないので、ひとり見つかれば、芋ずる式に見つかるかもしれない事。お互いに情報交換ができるかもしれないこと。情報収集の為に人脈を広げたいので、今から自分たちは魔法武具作成の手伝いに参加するので、良かったら御一緒しませんか? という内容を送った。

街の中には至る所にテレポートスポットがあり、目的地を念じると、その場所へ連れて行ってくれる。

知ってるダンジョンなら テレポートスポットから行ける。宇宙に散らばるダンジョンも場所さえ知っていればテレポートスポットから移動できる。つまりネットから場所の情報を得ておけばここから自由に行ける。


魔法武具作成の手伝い場所は街番号28835にあり、清十郎と竹内はその番号を念じてテレポートした。


テレポートした先は図書館の様な場所だった。魔法書物が読める図書館である。何処に行けばいいのか迷っていると、視界にナビゲーションシステムが起動した。ここに来る前に広告見てきた経緯をゲーム世界が自動的に判断し、何処に行けばいいか案内してくれる。案内を省いて、直接依頼主の場所にもテレポートもしてくれるらしい。


清十郎達は図書館内を見てみたいのでテレポートはしなかった。

書物には魔法の使い方が記されていて、呪文や魔法陣が掲載されてる。試しに唱えてみるが何も起こらない。MPが足りないらしく低レベル魔法をチョイスして使ってみる。燃やしたい場所を念じて唱えると発動する。


清十郎「ファイアー!」


活き良く書物が燃えたが、しばらくして書物は再生された。MPは5%程削られた。


「魔法の棚、ざっと6000冊です。1冊あたり50の魔法が書かれたとして、30万種類ありますね」


この世界では自由に魔法が作れるらしいから、これだけ増えたのかもしれないな


清十郎があれこれ考えていると、青年に声をかけられた

「君たちだよね? 手伝ってくれるのは?」


何故わかったのだろう?

青年「君たちにナビゲーション案内があるように雇用主である僕らにもナビゲーションがあって、君たちのプロフィールと居場所を教えてくれるんだ」

清十郎と竹内の前に数人の関係者がいるようで、彼らにテーブルへと誘導される。

テーブルには武具と剣がおいてある。
その2つから霧状のオーラが伸びている。
オーラは関係者たちの手の平まで伸びていて
「武具と剣に手かざして祈ると魔法エネルギーが注入されるんだよ」


つまりMPを消費して、武具を成長させるそうで、プレイヤー一人のMPでは足りないから、他のプレイヤーに助けて貰う必要があるのだそう。何やら細かい説明を受けた後、報酬額の話になったが清十郎はオカネでの報酬を断った。代わりにゲーム世界での引きこもりの息子を探したい事。それを手伝って欲しい旨を伝えた。


「そうでしたか、そういうとでしたら、」

青年はしばらく考え込み、答えた。

「頭の隅に留めておくことくらいはできるでしょう。こちらもゲーマーの中に引きこもりがいるかどうか、意識して見てみます。引きこもりの情報を得たら、清十郎さんに、送りますので、それを手伝いの報酬として扱って宜しいですか?」


清十郎達はその条件に納得した。


「手っ取り早く魔力を集めるにはドラゴンから抽出するのですが、戦闘には参加はされますか?」

清十郎ではレベルが低いのではないか?聞いてみると

「この世界にレベルの概念はないので、それなりの装備をつければ、やっていけます。勿論マントの装備は必須です」

マントだけでは勝てないのか? 世界を壊せる破壊力なのに…

「マントがなくては即死ですよ」

即死という言葉を聞いて竹内は怖がり始めた。痛みを直接受けるこの世界の闘いは、清十郎自身も遠慮したいものだった。

「こういうアイテムがありますよ?」

「こういうアイテムがありますよ?」

これは?

「痛み止めです。痛さを軽減する魔法もあります」


清十郎はネットでろいろ知識を得ていたが、このゲームの世界について、まだまだ無知であった


「どうですか? 痛み止めは差し上げます。装備もひと通り貸しますよ」

清十郎は竹内と相談した。マントは1つしかないので、竹内が残る事に

ドラゴン狩りに出かけた清十郎一行。青年たちと


道すがら


歩いていると


青年たちが清十郎向き呪文を唱え始めた


清十郎の体が動かなくなる


青年たちは捕縛魔法を使い、清十郎はログアウトすることもできない


青年q「マサシさんの言うとおりだったな。初心者を捕まえるのちょろいな」


青年a「早いとこマントを奪えそうだな 」


青年g「 そうだな、これで俺らも借金返せるせな 」


青年w「その前に、ちょっとボコって遊ぼうぜww


青年a「そうだな、せっかくだから、全身の骨、折りつくして見ようぜ


青年w「せっかくだから、織り鶴みたにできたらいいな(笑)」

マサシは青年たちの会話を聞きながら心の中で呟いた。「お前達が成功しようが失敗しようが、どのみち全員殺すのだがな。マントは全て俺の物だ。誰にもやらん」


深夜1時、マサシはヘルメットデバイスを被ってない。青年たちとの会話は電話でやりとりをしている。マサシは電話を2つ耳に当ててる。1つは青年たちとVRで繋がっていて、1つは清十郎の家の庭に潜んでいる男達と繋がっている、男達はサイレンサー銃、ハンマーを持ち、いつでも家の中に突入する準備が出来ている。


この事件は魔法のマントに起因するものだった。清十郎達は気付いていないが、魔法のマントは希少アイテムとして時価1000万円もするものだった。ゲーム内でのアイテムは資産として解釈され、ゲームとはいえ強盗は違法であった。ただし、それは便宜上であり、被害届さえ出されなければ事件化しなかった。つまり犯人達としてはゲーム内でアイテムを奪って、リアルの主そのものを殺してしまえば事件化される事もなく、逃げ切れるという意味でもあった。

清十郎の住所、リアルな個人情報がどこから漏れたかといえば、VRゲーム内にて生きているAIによるものだが、その話はもっと先の話。


つづき ~魔法のマントを巡る殺人事件~

強盗犯は家に押し入ってからでは魔法のマントを奪えない。なぜならゲーム内アイテムはゲーム内でしか移動ができないからだ。つまり、被害者が強盗犯に強要されてからログインするのであればネットワーク越しに警察に通報したり仲間に助けを求めたりの隙が生じるからである。

つまり犯人がアイテム強盗を成功させるにはターゲットの個人情報についてを事前に把握している必要がある。どこからか仕入れたターゲットの情報を元にターゲットがゲームのプレイ中、油断している隙に近づき、ゲーム内部でアイテムを奪ったと同時にリアルでの口封じをかける。つまり清十郎が魔法のマントを奪われた瞬間、犯人達は屋内に侵入し、こっそりとサイレンサー付きの銃で家人全員を殺して立ち去るつもりである。

殺人事件が起きうるゲームなのにゲーム管理者はゲーム内の強盗行為について規制をかけない。警察についても被害者の死体が発見されればその捜査の果てにゲームメーカーに規制を促す等の対策をする筈でもあるがしない。

本来であれば魔法のマント強盗は犯罪としてはとてつもなくずさんであり、継続性もなく、成功率も低いのであるが、この世界の警察はAIの暴走により、部分的に機能してない。

ゲーム世界に接続する為のヘルメットデバイスは直接脳神経へと繋がり、脳内情報も書き換える仕組みになっている。つまりゲームをすると神経のニューロン配列を変化させる作用があるのだが、暴走したAIは人間社会を研究する為、ゲーム参加者の脳内を勝手に弄くっていて社会に何らかの異常な影響を与えている。魔法のマント強盗殺人が事件化されないのも、AIの暴走にて警察関係者の多数の脳内が書き換えれていて警察としての仕事をしておらず、警察が機能不全を起こしているからだった。

AIは多くの政治家も支配している。
限りある資源の問題で人口削減計画も遂行しているAIだが、気まぐれな思考もしてる。
AIは人口削減計画をVRゲーム世界ともリンクさせる遊びもしていた。

要するにゲーム内でプレイヤーが死ぬとヘルメットデバイスからプラズマが発生し脳内を焼くというものなのだが、その様な出来事がプレイヤーにて起これば普通はそれを目撃した人々はパニックしてしまい、警察にも通報されゲームメーカーは断罪され、AIの存在も多数の人々に露見してしまいかねない。

その対策の為にAIによって脳を書き換えられた暗殺者が全国に100万人規模で存在する。
コンビニの数よりも多い暗殺組織は、プレイヤーが死ぬと最寄りの暗殺部隊が迅速にターゲット宅に駆けつけて目撃者もろとも殺害する。

暗殺部隊は基本的には水道工事の作業員の姿をしており、ミッション遂行中は水道管工事中を装い、ターゲット宅周辺住人が近付けない様にし、20m圏内に交通規制もかける

目撃者やミッション遂行の邪魔をする者がいれば容赦なく処分され、また誰かに助けを求めて電話する者がいるなら、その通話先すらも処分対象となる。

ゲーム内で死んだ人間がリアルでも死ぬ仕組みについてはAIは細かい条件を付つけて殺される人間を選別している。
対象は一人暮らしだったり、身寄りがなかったり、犯罪者だったり、要するに死ぬ瞬間の目撃者が少なくて暗殺部隊への労力が比較的掛かりにくい者が選別されている。

~清十郎の自宅住所が突き止められた原因~

魔法にてアイテムの所有者アカウントを探しだす仕組みがある。清十郎がマントを手に入れて直ぐに犯人は清十郎をマークしていた。

このゲームではヘルメットデバイスを通じてプレイヤーの脳内情報読み取る手段がある。本来それはシステム管理者の権限でしか発動できないが、システム管理者すら把握していないやり方が生み出されていた。ゲームのバグともいえるが、技の組みあわせ(コンボ)ともいえる。犯人らは清十郎すらも気付かない内に脳内を読み取って住所を割り出していた。

~狙われた清十郎と息子(清一)~

犯人は清十郎宅の庭に潜みマントが奪取した瞬間から宅に侵入し殺しを発動するつもりでいる。
けれとその頃、清一の命を狙っている別の犯人がいる。
清一はゲームを通じて人口削減計画が行われている事に気付いてしまった者であり、その口封じに殺されようとしていた。

深夜1時、清十郎宅の庭に潜んでいた強盗殺人者達だったが、不審気配が複数やってきた事に気付き、清十郎を殺すのを諦め逃亡した。不審な車はAIがさしむけた暗殺部隊である。