海での活動禁止。最前線に立つオーシャンアスリートの想いとは。

コロナの影響により、様々なスポーツの大会延期や中止が決まっている。
テレビや雑誌などの多くのメディアの目は延期された東京オリンピックに向き、スポーツ欄はオリンピック競技に選ばれているようなメジャースポーツのアスリートが占めている。しかし一方で、メジャーの陰には必ずマイナーが存在する。
マイナーな競技で戦うアスリートは、今何を思うのか。

4月20日、プロライフセーバーである西山俊選手に、今置かれている状況についてお訊きした。なお、このインタビューはオンライン上で行った。

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ー清水ー
あらゆるスポーツの大会が中止や延期となっていますが、西山選手が行っているライフセービングスポーツはどのような状況なのでしょうか。

ー西山ー
6月末までの国内大会は中止となりました。10月に神奈川の湘南で全日本選手権があるのですが、そちらはその時の状況を見て決定されると思います。国外の大会の方が決定は早く、本来今年の9月にイタリアで行われる予定だった世界大会が1年、もしくは2年の延期となりました。第二のオリンピックと言われているワールドゲームズも、例年通りであればオリンピックの次の年に行なわれますが、既に一年の延期が決定しており、現状は2022年の開催予定となっています。

ー清水ー
先が見えない状態が続いているということですね。

ー西山ー
はい。正直なところ、大会開催の有無に関しては中途半端な状態が一番辛いです。アスリートは目標となる大会から逆算して身体を調整します。ですので、開催されるのかどうか分からない状況は肉体的にも精神的にもしんどいですね。世界大会も1年から2年の延期ということなので、もしかしたら次の大会は2年後かもしれない。いつ開催されるかわからない状況の中練習をしていると、ふと、何やっているんだろう。という感情が襲ってくる時があります。だからこそ、今は少しでもポジティブ(大会の開催)なことを想像して練習しています。

ー清水ー
そういった状況の中、練習は行えるのでしょうか。

ー西山ー
今は(4月20日時点)は早朝や日が沈んだあとなど、人がいない時間帯、いないところを選び、海でのパドル練習やランニングなどの外の練習をしている状況です。また、家の中でインドアバイクや自重トレーニングを行なっています。しかし、正直今やっているトレーニングにも限界があると感じています。なんとか現状維持はできていると思いますが、今後、徐々にですがパフォーマンスは落ちていくと思います。

ー清水ー
西山選手はプロとして活動していますが、収入はどうなっているのでしょうか。

ー西山ー
去年からスポンサー契約を続けてもらっている企業と、自営の部分でなんとか生活をやりくりをしていますね。今は外出もできないので企業へのスポンサー活動もできないし、大会がなければ結果も提示できない。本当に頭を悩ませています。私のみならず、プロとして企業からのスポンサーで活動していた選手はおそらく同じ悩みを抱えていると思いますし、もっとひどい状況の人もいると思います。正直、この状況下において不安がないと言ったら嘘になると思います。


【このような状況下でも折れない想いとは】

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ー清水ー
このような事態が起こる前と今を比較して、何か考え方は変わりましたか?

ー西山ー
今後はどのスポーツ選手も、自分の競技パフォーマンス以外で稼ぐ力を身につけないといけない。それを考える為の良い機会になっていると思います。わかりやすい例で言うと、自分のアパレルブランドやスクールを作ったりしているアスリートもいますね。
 
オリンピックは1年の延期が決まりましたが、それだって実際はどうなるかわからないですし、どんなアスリートにも確実な未来はない。そのような視点で将来を考えていると思います。

そして、今の状況は社会全体の新陳代謝なんだと、自分は捉えています。これからの時代にそぐわない会社経営や業界は淘汰されていくし、それはスポーツ業界も同じです。現在進行形で新しい生き方を考え、作り出していかなければいけない立場に立たされているんだと痛感してます。


ー清水ー
西山さんは長年ライフセービング界を引っ張ってきたアスリートです。裏を返せば、決して若い年齢ではないということだと思います。今のように時代が転換していくタイミングでの引退などは頭によぎらないのでしょうか。

ー西山ー
どのような状況であれ、お金がないから、海に行けないから、とかそのような理由で引退するつもりはありません。カラダとココロが保つ限り、続けていきたいと思っています。
今後たとえ競技で勝てなくなったとしてもライフセービングには関わるつもりですし、特に教育や指導に力を入れたいと思っています。今までに自分が得たもの、スキルや経験を後輩に伝えたいですね。

ー清水ー
目に見えない恐怖や明日への不安など、逆境に立たされる中でのモチベーションはなんでしょうか。


ー西山ー
先ほども話しましたが、いつか再開した時を想像し、スポーツの可能性を信じて今は活動を続けています。例えば、徐々に拡大しつつある5Gの技術がこれを機にいきなり普及して、あらゆるスポーツが時間と空間関係なしに見れたり体験できるようになったら自分がいる意味あるのかなと思いますけど、やっぱり自分は生のスポーツをやっていきたいし、それがライフセービングスポーツの魅力でもあるので、常に最前線に立ち続けたいと思っています。今はその時を待って、ひたすら自分が出来ることをやっているという状況ですね。


ー清水ー
このような状況下でも折れない心や、常に最前線に立ち続けたいという想い。その根底にあるものはなんですか?

ー西山ー
全てのスタートは、”社会人としての消防士”と”アスリート”という二足のわらじを辞めて、アスリートとして人生を生きると決めてからです。今、この状況を理由に中途半端に辞めてしまうと、その時の覚悟を否定してしまっているような気がして。
 
あとは純粋に、応援してくれる人がいる、ということです。この前後輩と話していた時に、冗談半分、本気半分で、このまま競技が再開されなかったら終わりだなぁ〜みたいな話をしたら、後輩が ”俊さんにはニュートリグレイン(オーストラリアのプロリーグ)に出て欲しいので、辞めないでください”って言ってくれて。そう思ってくれる人いるんだと純粋に嬉しくなりました。
 
自分のやっているライフセービングスポーツは、就職しないで(二足のわらじを履かずに、アスリート一本で)最前線で頑張る人って本当に少なくて。まだまだ次の世代も後に続いてきていないんで、自分がやらなきゃダメだと言う使命感がありますよね。だからと言ってしがみついているわけではなく、しっかり自分の体力などをフラットに見た上で、まだやれると確信しています。とにかく今は大会開催を信じて活動を続けています。


〜インタビューを終えて〜
このインタビューの6日後である4月26日、ライフセービング世界大会の2年延期が正式に決定した。
また、自粛期間に海へ人が殺到したことを理由に、現在は海岸への立ち入りすら禁止されてしまっている。
まだまだ出口の見えない戦いは続くが、いつか再開したときのことを想像し応援してくれる人の為にと語った西山選手の目からは、アスリートとしてのプライドと折れない想いを感じることができた。


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