早稲田大学人間科学部eスクール「教師学概論」ショートレポート

 以下のショートレポートは、早稲田大学人間科学部eスクール2年生に在学中の2006年春に受講した「教師学概論」という科目の課題として執筆したものである。

 大学で学びはじめた理由が、いくつかの大学から「マンガを教えてみないか」と声をかけられことがきっかけだったこともあり、教職課程に必要な科目の受講も心懸けていたが、「教師学概論」もそのうちの1科目であった。

 しかし、教師や教員など、まるで無縁の存在であったため、指定された教科書を購入して読んでみても、何がなんだかチンプンカンプン。パソコンの画面を通じた講義を何度も視聴し直して、ようやく教科書に書かれている内容を理解するような状況だった。

 そんなときに、「教師の指導力不足と、その対策について述べよ」というショートレポートの課題が出て、パニックに近い状況に陥った。提示された「教師の指導力不足」がどんなものか、想像もつかなかったからである。もともと教師になりたいと思っていたわけではない。当然、教育関係の情報にもうとく、このテーマが教育界で大きな問題となっていることも知らないままこの科目を選択していたのだが、「こんな状態で、最後までついていけるのだろうか……?」と目の前が暗くなったことを覚えている。

 レポートの課題が発表されると、すぐに「Googleアラート(設定したキーワードを含む記事を見つけるとメールで連絡してくれるサービス)」を使っていたが、このときは、あまりヒットしなかったように思う。そこで使ったのが、文中にあるデータベースである。早稲田大学では図書館のWebサイト経由で多数のデータベースが利用できるようになっており、新聞記事検索データベースでは、朝日、読売、日経の記事が検索できるようになっていた。

 そこで「教師」「指導力不足」という2語でAND検索を実施したところ、134件の記事がヒットした。これらの記事の見出しをExcelに取り込んで、掲載年月日でソート(並べ替え)したところ、記事の件数は2001年以降に急増していることが判明した。そこで、これらの記事を読んでいった結果、「教師の指導力不足」が文部科学省の中教審で問題になっていることもわかったため、これをヒントに文部科学省のWebサイトで中教審の諮問や答申にも目を通すことができた。

 こうして得た情報を元にレポートに取りかかったのだが、「教師の指導力不足」についてデータベースで調べはじめてから、文章を書き上げるまでに要したのは3時間ほど。データベースの検索結果をExcelでソートし、時系列に並べ直すという作業は、「人間安全工学」という科目で書いたアイルトン・セナの事故死についてのレポートでもおこなっていたが、いま考えると、これもデータマイニングの一種といえるのではなかろうか。それも、ごく初歩的な。

 実は、Excelをこのような用途で使ったのは初めてではない。仕事として執筆していた架空戦記小説では、史実と架空の歴史をもとにした年表をExcelでつくってからプロット作りに入っていた。Excelのソート機能を使えば、あとから追加した項目も、適切な位置に挿入できる。このような作業をしながらストーリーを組み立てていたのだが、そんな経験がレポート執筆にも役立ったものらしい。

 54歳で大学生になったのはいいが、最初は、授業についていけるのか不安で不安でたまらなかったが、なんとかついていけたのも、パソコンとネットに慣れ親しんでいたおかげだろう。このような体験を通じ、それまで知らなかったことが理解できるようになると、学ぶことが、ますます面白くなる。まさに学びに目覚め、ハマることになり、ついには大学院修士課程まで進むことになった。子どもの頃から、何か気になることがあると、つい突っ走る傾向があったが、そんな気質がいまだに保持されているのかもしれない。

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「教師学概論」ショートレポート(2006年春執筆)

課題:「教師の指導力不足と、その対策」について述べよ

ク ラ ス:02
学籍番号:********
氏  名:菅谷 充

1. 教師の指導力不足とは?

「教師の指導力不足」という言葉については寡聞ながら知らなかったため、Googleなどを使って検索を試みた。また、Googleアラートを利用して、新聞記事やWebに関連情報が掲載されるたび、メールで連絡が入るようセットした。
 ただし、GoogleによるWebサイトの検索では、そのサイトに掲載された記事の中立性に疑問があるものが多く(教育委員会の立場に立つもの、教職員組合の立場に立つものなど多々あるため)、状況が呑み込めていない状態では誤認する可能性もある。そこで、まず、出所が明確な新聞記事の情報をベースに調べてみることにした。
 今回は、早稲田大学の学術情報検索から利用できる朝日新聞記事データベース「聞蔵 "DNA for Libraries"」を利用し、ここで「教師」「指導力不足」の2つのキーワードを使って記事を検索したところ、1984年から現在までで134件の記事がヒットした。
 この記事の一覧をExcelに取り込み、掲載年月日の順に並べたところ、2001年になって「教師」「指導力不足」を含む記事が急増していることが判明した。
 そこで記事の本文を仔細に読んでいくと、この年、文部科学省が中央教育審議会(中教審)に対し、「今後の教員免許制度の在り方について」という諮問を実施し、翌年、その答申(諮問の見送り)が出されていることが判明した。諮問の内容は、教員免許に更新制度を導入したいというものであった。
 同じ諮問は形を変えて2004年に再提出され、こちらは2005年末に、中間報告であるが、肯定的な答申がなされている。

画像1

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 朝日新聞の記事データベースでは、地方版の記事まで検索できるが、そのおかげで地方で「教師の指導力不足」に関連した記事が増えていることも確認された。これは文部科学省から地方の教育委員会に対し、指導力不足の教師に関する調査の要請などをおこなった結果、各地で指導力不足の教師がリストアップされ、それが新聞記事になったためと思われる。
 これら朝日新聞の記事だけでなく、インターネットプロバイダー@niftyのポータルサイトから利用できる「新聞・雑誌記事横断検索」サービス(4大紙、通信社、地方紙などの記事を横断検索できる。有料)を使って関連記事を検索した結果、「教師の指導力不足」については「教員免許の更新」で解決できる性格のものではないと考えるようになった。
 文科省は、いわゆる「問題教師」が増えたことで、国民の教師に対する信頼感が揺らいでいることから、国民の要請に応えるかたちで「教員免許の更新制度」を諮問してきたように見える。問題にされているのは、いわゆるセクハラや盗撮といった教師にあるまじき犯罪行為が多いのだが、学校の現場で唱えられている「指導力不足」とは、同僚の教員や子ども、あるいは保護者とコミュニケーションが築けない教員が増えていることに起因するものが大半のように見えた。
 次に、各地の教育委員会がリストアップした「指導力不足」とされた教員について、その理由を読んでみた。すると、犯罪的なものや思想信条に基づくものを除くと、その大半が、やはり、「コミュニケーション不足」や「コミュニケーションが確立できない」が指導力不足の原因となっていた。。

2. 指導力不足解決のための対策は?

 文科省は「指導力不足」の教員を排除するための教員免許更新制度を諮問しているが、それに対する中間報告や最近のワーキンググループのコメントなどを見ていると、今回は、教員免許の更新制度も通過しそうな気配である。
 免許の更新については、30時間程度の講習への参加が義務づけられるらしいが、「指導力不足」の原因が「コミュニケーション下手」にあると考えると、教員免許の更新制度が効果を発揮するかどうかは疑わしい。学校内の教職員同士の人間関係、子どもや生徒との人間関係、保護者との人間関係といったコミュニケーションづくりに齟齬をきたす教師が多いということは、「人間性」の問題となるからである。
 この「人間性」とは「人間力」、すなわち「生きる力」と言い換えても良いのではないか。ごく最近、教育実習生の指導を担当した教員に話を聞いたところ、「今時の教育実習生は『打たれ弱い』ので、優しく扱うように」と上司から注意があったという。これも、やはり「生きる力の不足」という問題に帰結しそうである。
 いま、小中高に「総合的な学習」が導入されているが、これは、知識偏重型の学習から、「生きる力」を身につけるための学習であるとされている。現在は、教師にも「生きる力」が求められる時代になっているのではなかろうか。
 現在の教育系大学のカリキュラムを見ると、教え方の技術については学んでいるが、学生個々の「生きる力」を高めるための教科は少ないように思われる。このような座学タイプの教科と教育実習に加え、たとえば、地域の介護施設でのヘルパー体験やデパートや商店などでの販売実習といった実社会の中での活動なども必修単位とすることで、教師をめざす学生も様々な「人間関係」を体験でき、より「打たれ強くなる」のではなかろうか。
 なお、教員免許の更新制度に関連して、専門大学院の設立も考えられているとのことである。この大学院が、やはり「人間力」をつけることにも重点を置くのであれば、その設立には賛成である。また、情報教育から健康福祉まで、幅広い学際的な教科を学ぶことができる早稲田大学人間科学部の延長にこそ、このような教員養成専門大学院が設立されて然るべきではないかとも考えている。

(END)


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