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日活映画『俺の血が騒ぐ』を見る

 アマプラに日活や東映の古いプログラムピクチャーがたくさんあるのは知っていたが、なかなか時間がとれず、見る機会がなかった。ちょっと仕事が一段落ついたので、小学生から高校生あたりにかけて見た記憶のある映画を探してみた。そうしたら、いろいろあるではないか、懐かしい作品が。
 そんなわけで、ちょいと見てしまったのが赤木圭一郎主演の『俺の血が騒ぐ』という日活アクション映画。実は、この映画、2006年にDVDが発売されたとき、気になることがあって購入し、見ていた作品でもある。何が気になることだったのか。2006年にWebサイトの日記に、その内容を書いている。


〈Web日記〉

2006年08月14日(月)
▼日活アクション映画についての疑問が、25年ぶりに氷解

 先日、『電光石火の男―赤木圭一郎と日活アクション映画』(末永昭二/ごま書房/2006年5月刊/1,500円)という本を注文したついでに、勢いで買ってしまったのが赤木圭一郎主演の『俺の血が騒ぐ』という映画のDVD。1961年1月公開の作品で、次に公開された『紅の拳銃』が赤木圭一郎の遺作となっている。
 1950年生まれのぼくが『俺の血が騒ぐ』を見たのは10歳、小学4年生のときのことだ。母が日活作品を上映する中央劇場という映画館で働いていたおかげで、ぼくは顔パスで映画が見られるという恵まれた環境の中で育っていた。家にはテレビもないほど貧しかったが、そんなことが気にならなかったのは、好きなだけ映画が見られたからだろう。もちろんヒーローは、小林旭であり赤木圭一郎だった。
 いちど気に入った映画は、連日、学校帰りに映画館に立ち寄っては、主題歌まで憶えるほどに、何度も見たものだ。昨日、DVDが届いた『俺の血が騒ぐ』も、そんな映画の1本で、確か7回見たはずだ。映画は3本立てで、1週間で上映作品が替わる。『俺の血が騒ぐ』は『零戦黒雲部隊』(石原裕次郎主演)あたりとともに、7日間、1日も欠かさずに見た映画の1本だった。
 それから20年後の1981年、ぼくが30歳のとき、突然、『日活アクションの華麗な世界』(渡辺武信/未来社/全3巻)という本が刊行された。気になってすぐに購入し、ページを開いてみると、そのとたんに懐かしさで胸がいっぱいになり、一瞬、涙があふれそうになった。毎日のように映画館に入りびたっていた小学生の頃のシネマパラダイスな日々を思い出したからである。
 だが、この本には、読んでいて、ちょっと気になる部分があった。それは『俺の血が騒ぐ』のストーリーを解説した箇所で、主人公の父を殺した犯人が使っていた拳銃についての記述だった。著者の渡辺武信氏は、父親殺しの犯人が使っていた拳銃を「ベレッタ」と特定していたのだが、ぼくの記憶では、「38口径のリボルバー」というだけでメーカーや型式名はなく、しかもアメリカ製のはずだった。そして、実際に画面に出てきた拳銃は、短銃身(スナップ・ノーズ)のコルトかスミス&ウェッソンのリボルバー(回転式拳銃)だった。
 映画の中では、この「38口径のリボルバー」は、きわめて珍しい拳銃だとされていたが、「38口径のリボルバー」なら、日本の警官だって使っていて、少しも珍しくはない拳銃で、子ども心に「この映画を作った人は、拳銃のことを知らない」と憤慨したことまで憶えている。ぼくは、近所の家で購読していた「週刊アサヒ芸能」をこっそり開いては、大藪春彦氏のガン小説を読んだりする「ガン・マニア」でもあったのだ。年齢の離れた腹ちがいの兄に、鋳鉄製の「ルガーP‐08」をお年玉がわりに買ってもらったのも、この頃のことだ。
 こんな状態だったので、「38口径のリボルバー」は、日本でも少しも珍しくなく(片岡千恵蔵も多羅尾伴内を演じたときは、同種の拳銃を使っていた)、また、連続テレビドラマ『アンタッチャブル』あたりでも、よく見かけていた。
 だから1981年(30歳のとき)、『日活アクションの華麗な世界』を読んで、『俺の血が騒ぐ』で重要な小道具となった拳銃が「ベレッタ」だと指摘されているのを知ったとき、反射的に「あれれ……?」となってしまったのだ。
 といっても、その時点で、実際に映画を見たときから20年が過ぎていた。『ゲームセンターあらし』の連載で多忙な頃で、名画座あたり出かけるひまもなく、その後、ケーブルテレビと契約した際には「チャンネルNECO」あたりで放送されるのでは……と期待したが、番組を確認している時間もなく過ぎていた。
 一昨年(2004年)、『日活アクションの華麗な世界』が合本となって復刻されたときも、書店で発見したとたんに購入した。全3冊本を持っていたのにだ。そして、このときもまた『俺の血が騒ぐ』の「ベレッタ」に引っかかった。

 つい最近まで映画をDVDで見る習慣もなく、結局、「ベレッタ問題」は放置されたままになっていたのだが、書籍の『電光石火の男―赤木圭一郎と日活アクション映画』を購入したのを機に、アマゾンでDVDを探してみると、『俺の血が騒ぐ』もDVDになっていることがわかり、えいやっと買ってみることにしたというわけだ。
 昨日到着したDVDを、昨夜、寝る前に見てみたのだが、こちらの記憶がちがっていたらどうしよう……と、ハラハラドキドキ。でも、オープニングもほぼ憶えていたし、タイトルバックに流れる主題歌も、ほとんど歌えるではないか。小学生の頃、7回も見た映画の記憶が、脳細胞のどこかに刻み込まれていたらしい。
 そして、冒頭あたりで、主人公の父親を殺した拳銃が「38口径のリボルバー」というセリフが早くも登場した。主人公の邦夫(赤木圭一郎)が、弟の明(沢本忠雄)に、拳銃を持っているところを見つかってしまうシーンである。
「38口径のリボルバー」という言葉は、父親の敵を捜すためのキーワードとして、その後も、しつこいくらいに登場してくるのに(「アメリカ製」という言葉も出てきたが、メーカー名は出てこない)、ベレッタというセリフは、聞き漏らしがない限り、いちども出てこない。そもそもベレッタはイタリアの銃器メーカーで、自動拳銃(オートマチック)が中心で、回転式拳銃(リボルバー)は製造していなかったはずだ。
 goo映画の『俺の血が騒ぐ』のあらすじ解説でも、やはり、父親殺しの犯人が「ベレッタ」を「肌身はなさず持っている」となっている。そのため、こちらの記憶ちがいだったのか……と不安が一杯だったのだが、DVDを見るかぎり、こちらの記憶が正しかったようで一安心。渡辺氏も、記憶を頼りに書いたところがあって(もしかすると企画書や脚本などの資料があったのかもしれないが)、こんな誤解が生まれたのかもしれないが、ビデオもDVDもなかった時代のことではあるし、無理からぬ話ではある。
 ん? ……てえことは、つまり、goo映画の『俺の血が騒ぐ』のあらすじも、現物の映画を見て書いたものではなく、『日活アクションの華麗な世界』を下敷きにしてまとめたものってこと……? 日活アクション映画について語るとき、バイブルでもあり定本でもある本なので、しかたないのかもしれないが、もし、参考にしているのなら、一言ことわっておいた方が、要らぬ誤解を招かずにすむかもしれないのにね。
 10歳のときに見た映画の記憶が、30歳のときに読んだ「日活アクション映画のバイブル」になる本に頭から否定されたような気がして、ずっと喉の奥にサカナの骨が引っかかったような状態がつづいていた。今回、購入したDVDを見て、やっと、この骨を取ることができたのだった。ああ、スッキリした……ってとこですかね。
■今日、届いて見たDVD
『俺の血が騒ぐ』『俺の血が騒ぐ』(赤木圭一郎・主演/山崎徳次郎・監督/日活/1961年1月公開/2003年10月DVD発売/3,990円)........内容は上記のとおり。ちなみに脚本の中には〈池田一朗〉という名前も。そう、あの隆慶一郎氏の脚本家時代の名前である。


 こんな日記を2006年に書いていたのだが、文中で触れた「goo映画」も、いまはない。ただし検索してみると「映画.com」が引き継いでいるらしい。ここで『俺の血が騒ぐ』を検索してみると、やはり登場する拳銃は「ベレッタ」になっていた。

 ちなみに、アマプラで『俺の血が騒ぐ』を見たときも、「♪風は海から吹いてくる~」ではじまる主題歌は、ほぼ歌えたのでありました。


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