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【小説】 In the blink of an eye

人々が桜の美しさに顔を見上げる頃、僕は憂鬱に押し潰されて横になっていた。憂鬱とはあまりにも対照的な外の陽気は、僕を強く、強く布団に押しつけた。 高校は春休みに入り、授業はなかったが部活には精を出していた。それでも、部活の練習に行く時間以外はこうして横になる事が増えた。そういえば、部活でも上手くいかない事が多くなった。勉強の出来は元から悪かったが、今学期の成績表には目も当てられなかった。 平凡だった日常が最後に訪れた記憶は、既に不確かだった。それでも、こうして横になると瞬く

    • They say the good die young

      才能のある人は早死すると聞いたことがある。誰かが作り出した話ではなくて、事実としてそうだったという。死に依って才能が証明されたのか、才能が死をもたらしたのか、死と才能の有無に因果関係があるように思える事実だが、実際はそうではない。才能のある人はまだ五万と生きているし、驚嘆せずとも死は必ず誰にでも訪れる。自分にも、聴き馴染みのあるアーティストにも。 2022年11月6日(日)の朝、あるアーティストが事故死したと各紙が報じた。そのアーティストは誰がどう見ても才能に溢れていて、そ

      • 【小説】Starting Over

        23歳の春。変化のない春は初めてだった。今年の春を迎えるまで、春には必ずソーシャルイベントがあった。どこかへ集まれば沢山の人と交流できたし、新たな環境が追わずとも待っていた。地元にいるのは退屈だったので、仕事を変えたり、新たな趣味を始めようとしたが、中学時代の部活の後輩や当時付き合っていた彼女の顔を思い出してやめた。 毎春、地元の小学校の桜を見るために何度も外を歩いていたが、今年は桜を見に来たというより、桜の姿を思い出しに来たような、そんな気分で桜を眺めた。僕は、僕自身が自

        • 【小説】Stay Youth Forever

          「全部無駄だったな」 最後の歌詞は確かそうだった。高校時代の友人たちに連れられて来たライブハウスでその歌詞を歌っていたのは、また別の高校時代の友人であるアイツだった。 ライブの事はよく覚えていない。興味がないと言うより、見ていられなかった。音響だけはキッチリと整えられたその空間で鳴り響いていた音楽は、アイツを含めた今も変わらないメンバーが、高校時代に文化祭で演奏していた音楽と何ら変わりはなかったからだ。 楽器よりも声の通らないボーカルのアイツをはじめ、演奏に一生懸命で下

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        【小説】 In the blink of an eye

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          【小説】Written In The Stars

          それは何度も出会ったはずの感情なのに、もう二度と出会う事のない感情のように錯覚してしまう。そんな抱きしめたくなるような愛おしい感情が、生きているこの瞬間の美しさを象徴していた。 二月、夜の冷たい風は街を沈黙させた。僕は、白いランニングシューズの靴紐を結び、誰もいない世界を駆け抜けた。 この電信柱からあの電信柱まで、三十メートル。 自分の腕を、脚を大きく振り、内臓を自ら痛めつけるようにフル稼働する。夜の寒気は、激しく動く肺を鋭く刺す。それでも呼吸を続ける。 人生はランニ

          【小説】Written In The Stars

          【小説】Lonely, But Not Alone

          ハタチになってからというもの、お酒を浴びるように飲むヤツや、ギャンブルで大金を使って遊ぶヤツ、ブランドものばかりを身につけるヤツが私の周りに増えた。 つい最近まで同じサッカー部で汗を流していた友人たちもそんな人間になってしまって、すっかり体も丸くなってしまった。 私には中学生の頃から変わらない仲の良いメンバーがいた。「喧嘩するほど仲が良い」という言葉のせいで、仲の良い連中には喧嘩が付き物のように感じるが、私たちはもう7年ほど一緒にいるのに、喧嘩を全くせずに楽しい時間だけを

          【小説】Lonely, But Not Alone

          【小説】A Life

          夏は、いつの間にかやって来る。時々、夏が七月から始まるというのが嘘のように聞こえるほど六月は暑い。自分だけ人とは違う体なのだろうか。人と違うのは当たり前なのに、感じ方の背景や順序が違うだけで劣等感を感じてしまうのは、心の奥底では、人生に正解があると思っているからだろうか。 少しでも暑さから逃れるように下を向いていると、冬の時より影が短くなっていることに気づいた。 暑さから逃れることを諦めて顔をあげると、電光掲示板の次に来る電車が遅延する知らせに目が止まった。 少し時間がで

          【小説】A Life

          【小説】Time Will Tell

          世の中が桜の桃色に魅了されている春に、誰が青という色を想像して「青春」と名付けたのだろう。 17歳になってからは、僕らの世代を中心に世の中が動いているように見えた。若さに浮かれていた僕は、常にそんなことを考えるほどの時間を持て余していた。 流行りのものはいつも僕らのすぐ側にある。僕らが頻繁に飲む食べ物や飲み物が、テレビでは僕らに少し遅れて特集されブームになり、僕らの世代がスポーツや文芸、芸事で活躍すれば、すぐに取材が追って持て囃した。 遊ぶ時間も、何かに夢中になる時間も

          【小説】Time Will Tell

          大人になるということ

          大人になったら仕事や上司との関係で、大変なことが増えるんだろうな。そういえば、友達が結婚したら「ご祝儀」っていうのを渡さなきゃいけないんだっけ。聞いたことあるな。あ、お年玉も貰う側からあげる側になるよな。 大人になったら、大変だろうなと考え始めたのはかなり早かった気がする。小学生の頃から友達が多かった僕は、「絶対にそんな大人にはならない」と固く誓った。 でも、実際に訪れたのは、側にいた友達との考え方の違い、自分の理想と現実のギャップなど、確かに子供では経験したことがないこ

          大人になるということ

          【あとがき】ALL ALONE

          この記事は、前回の記事「ALL ALONE」のあとがきです。 これは自分と自分の対話のお話「二人きりでないと話せない」「帰りにイヤホンをしたら急に一人になる」「自分の分しか飲み物を買わない」ということから分かるように、ただ一人で歩いている時間に、頭の中で二つの感情がぶつかっているシーンを対話として表現したこの小説。 基本的には二つの異なる感情同士の意見が対立しているように見えるが、時折、「それは分かる」とシンクロしているシーンで、「諦めなけれな夢は叶う」「自信はある」とい

          【あとがき】ALL ALONE

          【小説】ALL ALONE

          人の顔も明瞭に見えない真夜中で点滅する黄色信号は、自分の将来に対する不安に似ていて嫌いだった。 夏の暑さも眠りに落ちる午前2時。 僕たちは二人きりでないと話せなかった。それだけお互いを尊重していたのだと思う。一方が意見を出せば、もう一方はその意見を聞く。自分でも非常に良い関係だと思う。 来週に迫った上京の日。思い返せばこの日が近づくほど、その会話に込められた感情は激しくなり、対話の時間は長くなった。 二人で話すのに適しているからと始めた真夜中の散歩は、既に習慣になって

          【小説】ALL ALONE

          ロックを聴いて育った俺たちは

          行動の全ては「反骨心」が基づいている感覚がある。 初めてロックを聴いたのは13の頃だった。衝撃が走った。5人のメンバーが五角形に繋がって見えた。エネルギーに満ちた歌詞は常識を変えた。聴いたことのないサウンドは夢中でグラウンドを走っていた時の興奮に似ていた。そんなロックに憧れを抱きながらも、自分に似てると思った。 人より早く訪れた反抗期。何十周もグラウンドを走る単調なトレーニングや、台形を求める公式がなぜ上底と下底を足して高さで掛けて2で割るのかが疑問で仕方なく、誰かが答え

          ロックを聴いて育った俺たちは

          【あとがき】Oxymoron

          この記事は前回の「Oxymoron」のあとがきです。 1.「Oxymoron」の意味「Oxymoron」とは、撞着語法(どうちゃくごほう)のこと。撞着語法とは「明るい闇」「冷たい情熱」などの矛盾した意味の言葉を一つの文脈に入れること。 今回では、「明るい闇」「臆病な自尊心」「無音の悲鳴が喧しい」「生き方で殺す」などの表現がそれに該当する。 効果としては注意を惹きつけたり、その描写について考えさせたり、主張を強めたりする効果がある。 今回の文章の中に、この撞着語法自体に

          【あとがき】Oxymoron

          【小説】Oxymoron(オクシモロン)

          梅雨。薄暗い体育館に幽閉されていたからか、雨上がりの夕暮れはこの世のものとは思えないほど美しく見えた。 僕は今日のホームルームを終えた後、一人で図書室へ向かう階段を登った。 一つ階が増える度に人の気配がなくなり、遂に誰もいなくなった五階に図書室があった。ドアを開けると、中には誰もいなかった。そして、窓から見える夕暮れの美しさにつられるように窓際の席に座った。 一人の時間が好きだった僕は、毎日ここで呼吸をすることができた。 参考書を開いて勉強をするフリをして、それを手元

          【小説】Oxymoron(オクシモロン)

          【仕事依頼・PV数など】noteを1年続けて変わったこと

          noteを投稿し始めてから1年経った。 いつの間にか1年経っていたことを、noteからの通知で知ったので、自分がどこまで成長したか再認識したので、ここで紹介したいと思います。 noteを始めたキッカケ最初は漠然と「ライター」という職業に憧れてnoteを始めた。理由は、このご時世になる前からずっと「リモートワーク」というものに憧れていたから。 ただ働き方に憧れていたので、何を始めたらいいか分からない時期に「フリーライター」という職業に出会い、何か始めてみようと思ってnot

          【仕事依頼・PV数など】noteを1年続けて変わったこと

          素人が100日間ピアノを叩いてみた

          運動の最中には激しいロックを聴き、散歩する時はゆったりとしたヒップホップを聴く。好みのアーティストの曲はiPhoneが無くても脳内で再生できる。歌詞の分析も好きだし、インタビュー記事を追うのも好きだった。 しかし、「楽器」というものに一度も触れてこなかった。 どこかで音楽というのは先天的な才能か、英才教育による賜物だと勝手に信じ込んでいた。年齢を数えれば数えるほど、不利になっていく世界だと思っていた。 そんな僕が、100日間ピアノを叩いた。正確にいうと、練習としてキーボ

          素人が100日間ピアノを叩いてみた