びっくり月見なのだ
外食を嫌う母が珍しくどこかへ食べに行こう、と言った。
何が食べたい?と聞かれたけれど本当に食べたいものを言っても却下されかねない。母は本来外食が嫌いだから。
こういう時はびっくりドンキーと答えるのが無難である。サラダやみそ汁もあるからびっくりドンキーのことは嫌っていないだろう。既に今までも母と外食するといえばほぼびっくりドンキーなのだった。
びっくりドンキーにしようと伝えてみた。母は「肉かぁ……」と若干難色を示したが、びっくりドンキーに決定した。その瞬間から私は胸を躍らせていた。私は外食が好きだ。
びっくりドンキーで食べるメニュー。
今まではチーズバーグ一択だった。
この美しきバッテンの形状をした濃厚なチーズがたまらない。チーズは濃厚であればあるほどよい。肉の上でとろけたチーズも絶品だし、食べるのに時間がかかって固まってきたチーズもそれはまたそれで良し。
今回もバッテン王者を食すだろうと思っていたが
期間限定!?月見!?なんだこいつは!!
とろとろのたまごが艶やかにこちらを見つめている。や、やめろ!俺にはチーズバーグが……!う、うわあああああ!!!
はむはー!
ついに来てしまった。
チーズバーグと月見が天秤を揺らし合い、まだ決着がついていないというのに。
メニュー表のあいつがいない!あの窓みたいなクソデカメニュー表はどこいったんだ!
話には聞いていた。あいつがどんどん姿を消していっていると。そんな中でもこの店舗はずっとあのクソデカメニュー表を残してくれていたのだが……ついにここにも魔の手が伸びてしまったか……。悲しい。せめてこのタッチパネルをメニュー表くらいのクソデカサイズで用意してくれていたらまだ心の傷は浅かっただろうに。
しまった。メニュー表に心を乱されて月見を注文してしまった。お前……あんなに愛したチーズバーグを見捨てたのか……?
ノンノン
チーズトッピング2本180円さ!
そう。どちらか迷ったらどちらも食べればいいのである。我ながら天才かもしれない。
ふふふ。この天才論、誰かに見せつけたい。今度こしあんとつぶあんで揉めている人たちにこしつぶを混ぜたものの提供でもしてみようか。
話を戻すね。
とろっとろの黄身。私を見つめたまま目を逸らさない黄身。その下に鎮座するのはタルタルソースのようなたまごサラダ。そして更にその下に広がる大海原はてりやきソースとマヨネーズだ。
すべての具材が私に食べられるのを静かに待っている。こんなにつるつるなたまご、食べるのが勿体ないくらいだが……
つん🥢
わあぁ。
大海原が黄色に染まってゆく。染まりきらないうちに慌ててバーグの地盤と絡めて口に運ぶ。
……うめぇよ。黄身が絡みついたバーグ、たまらない。たまごが絡まって美味しくないわけがない。こってりしたてりやきソースもまた味わい深い。そのこってりをたまごサラダが少し中和してくれているような感じがまたちょうど良い。
流れ出るてりやき大海原をライスやサラダにも絡めてあっという間に食べ尽くしてしまった。
今日のみそ汁は
・青ねぎ
・なめこ
・ほうれん草
と書いてあった。具材は毎回変わるのだろうか。
みそ汁は以前にも頼んだことがあったし、うまいうまいと飲み干したけれど何の具材だったか言ってみなと言われるとかなり詰む。
これからは具材にも注目して味わっていこうと誓った。
私はいつも同じものを注文しがちだ。
マクドナルドではダブルチーズバーガーばかり食べるし、サイゼリヤでは半熟卵のミラノ風ドリアばかりだしびっくりドンキーではチーズバーグばかりだった。
だが今回。月見を頼んでみて(チーズも乗せたけれど)、ひとつ人生の一歩を踏み出すことができた気分だ。これからはもっと冒険していつもと違うことをしてみたい。だが、ダブルチーズバーガーは譲れないかもしれない。