さx

コンビニのロールケーキ

 怠惰な生活のおかげで学業も就職も資格取得も危ういまま、そんな現状には目もくれず、スマートフォンを片手に目の前のYouTuberが必死に生きている姿を、死んだ魚のような目で眺めるだけの日であっても、ずっと変わらない家族は仕事帰りにコンビニのおいしいロールケーキを買ってきてくれる。
 こんな生き方をしていて申し訳ないと思っていても、口に入れてしまった美味しいロールケーキは、とても美味しい。
 実際にはそこまで美味しいと感じるわけではない。腐った生活をしているせいで感性は鈍りきっていて、美味しいはずの美味しいロールケーキを美味しく味わうことも出来ない。舌は美味しいと感じてくれなくても、それでも、その美味しいロールケーキは間違いなく美味しいのだから、美味しくないはずがないのだから、と、鈍いなりの感性で美味しさを味わっている。
 素直に美味しいと思えない事実と、ゴミみたいな人間でもこんなに美味しいものを食べてしまえる現実を思うと、溢れない涙が溢れてくる。眼球は乾いたまま、なんとも言い難い感情で前が見えなくなる。以前なら、美味しい美味しいといいながら全部平らげてしまえたはずのコンビニのロールケーキが、美味しいはずのロールケーキが、今は一切れ食べただけでもう我慢できなくて、もう、我慢できないのだ。

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