電験3種 2021年度 理論 問15 三相交流回路


(前提1)交流回路と合成インピーダンス

突然ですが問題です。
⓵ 抵抗値3Ωの抵抗に60Vの直流電源をつなぐと,流れる電流は何Aでしょうか?
② 抵抗値4Ωの抵抗に60Vの直流電源をつなぐと,流れる電流は何Aでしょうか?
③ 抵抗値3Ωの抵抗と抵抗値4Ωの抵抗を直列につなぎ,そこに60Vの直流電源をつなぐと,流れる電流は何Aでしょうか?

全部オームの法則で解けますね。
⓵ 60V÷3Ω=20A
② 60V÷4Ω=15A
③ 60V÷(3Ω+4Ω)≒8.57A
③では,抵抗を直列につないだときの合成抵抗値は,それぞれの抵抗値の和になることを使いました。

では,次の問題です。
④ 抵抗値3Ωの抵抗に60Vの交流電源をつなぐと,流れる電流は何Aでしょうか?
⑤ 抵抗値4Ωの抵抗に60Vの交流電源をつなぐと,流れる電流は何Aでしょうか?
⑥ 抵抗値3Ωの抵抗と抵抗値4Ωの抵抗を直列につなぎ,そこに60Vの交流電源をつなぐと,流れる電流は何Aでしょうか?

答えは直流の時と同じです。
④ 60V÷3Ω=20A
⑤ 60V÷4Ω=15A
⑥ 60V÷(3+4)Ω≒8.57A
オームの法則は交流でも成り立つし,抵抗をつないだときの合成抵抗値は直流でも交流でも同じです。

最後の問題です。
⑦ 抵抗値3Ωの抵抗に60Vの交流電源をつなぐと,流れる電流は何Aでしょうか?
リアクタンス4Ωのコイルに60Vの交流電源をつなぐと,流れる電流は何Aでしょうか?
⑨ 抵抗値3Ωの抵抗とリアクタンス4Ωのコイルを直列につなぎ,そこに60Vの交流電源をつなぐと,流れる電流は何Aでしょうか?

答えは,
⑦ 60V÷3Ω=20A
⑧ 60V÷4Ω=15A
⑨ 60V÷(√3^2+4^2)Ω=60V÷5Ω=12A

⑦は問題自体④と一緒なので,考え方も答えも当然一緒です。

⑧で出てきたリアクタンスとは何でしょうか? ざっくり言うと,リアクタンスとは交流の流れにくさです。
抵抗が大きくなると直流電流も交流電流も流れにくくなります。一方,リアクタンスが大きくなると交流電流は流れにくくなりますが,直流電流の流れやすさには影響しません。
具体的には,コイルの巻数を増やすとリアクタンスが大きくなり,交流は流れにくくなっていきます。一方,直流にとってコイルはただの導線なので,巻き数が増えても流れやすさは変わりません(実際には導線が長くなった分抵抗が増えて流れにくくなりますが,リアクタンスの増加に比べて抵抗の増加は極めて小さいので,普通の問題では無視します)
コイルのリアクタンスをオームで表すと,コイルにかかる電圧・コイルに流れる電流・コイルのリアクタンスの間にはオームの法則が成り立ちます
したがって,リアクタンス4Ωの時の電流の大きさは抵抗4オームの時の電流と同じ式で,15Aと求まります。

⑨の答えは③や⑥とは異なっています。式を見ると,③や⑥で抵抗3Ωと抵抗4Ωの直列だから合成抵抗は3+4=7Ωと言っていた部分に,√3^2+4^2=5Ωという謎の式が入っています。この5Ωというのが抵抗とリアクタンスを合成したものです。抵抗とリアクタンスを合成したものをインピーダンスと呼びます。
どうやって合成するかというと,抵抗を右向きの矢印で,リアクタンスを上向きの矢印で書きます。矢印の長さはオームの値に比例するように,矢印の場所は最初の矢印の先と次の矢印の根元が同じ場所になるようにします。最初の矢印の根元と最後の矢印の先をつないだ長さが,抵抗とリアクタンスを直列につないだ合成インピーダンスの大きさになります(数学でいうと抵抗のベクトルとリアクタンスのベクトルを足して作ったベクトルが合成インピーダンスのベクトルです)

式でいうと,抵抗R[Ω]・リアクタンスX[Ω]・合成インピーダンスZ[Ω]とすると,三平方の定理で,
 Z^2=R^2+X^2
 Z=√R^2+X^2
となります。
電圧・電流・インピーダンスの間にもオームの法則が成り立つので,合成インピーダンスと電源電圧から,電流を求めることができます。

(前提2)交流回路とベクトル

直流回路では、回路上のある点Aを基準に点Bを測った電圧Vbaが10V、点Bを基準に点Cを測った電圧Vcbも10Vなら、点Aを基準に点Cを測った電圧Vcaは必ず10+10=20Vになります。
一方、交流回路は、点Aを基準に点Bを測った電圧Vbaが10V、点Bを基準に点Cを測った電圧Vcbも10Vなのに、点Aを基準に点Cを測った電圧Vcaも10Vということがあります。状況によってはVcb=0Vだったり,Vcb=20Vだったり,Vcb=5Vだったりすることもあります。

これは,直流は電圧の大きさだけで表せるのに対し,交流は電圧の大きさと角度(位相角)を組み合わせて表されるからです。
普通の電圧計では電圧の大きさしか測れないので,電圧計を見て「電圧は○ボルト」と言っているのは,厳密に言うと「電圧の大きさは○ボルト,位相は不明」ということになります。
交流の電圧の大きさと位相角を表すのに都合がいいのが矢印です。矢印の長さで電圧の大きさを,矢印の角度(真右を0度として反時計回りに回転させた角度)で電圧の位相角を表します。

例えば,点Aを基準に点Bを測った電圧Vbaの大きさが10V,位相角0度(以後Vba=10∠0°[V]と表します)だとすると,A点を矢印の根元にして,右に長さ10の矢印を書くと,矢印の先がB点の電位になります。
ここで,Vcb=10∠0°[V]だとすると,B点からさらに右に長さ10の矢印を書くと矢印の先がC点になります。この時,A点が矢印の根元,C点が矢印の先になる矢印を書くと,長さ20の右向き矢印になるので,Vca=20∠0°[V]となります(下図の右上)。普通の電圧計では位相角は測れないので,電圧計の読みは単に20Vとなります。

一方,Vba=10∠0°[V],Vcb=10∠120°[V]だとしてみます。まずA点から右に10の矢印でB点を書くところまでは同じです。次にB点を矢印の根元にして,右向きから反時計回りに120度(左上方向)に長さ10の矢印を書くと,矢印の先がC点になります。A点を矢印の根元,C点を矢印の先にした矢印を書くと,長さ10で右向きから反時計回りに60度(右上方向)の角度の矢印になります。したがってVca=10∠60°[V]となり,電圧計の読みは10Vになります(上図の右下)

このように交流を矢印で表すのがベクトルという考え方で,矢印で描いた図をベクトル図といいます。
ちなみに,図の左の回路図にも矢印を書いていますが,回路図に書いた矢印はベクトル図ではなく,回路のどこを基準(矢印の根元)にどこの電位(矢印の先)を測っているかを示しているだけです。図の右上と右下がベクトル図です。

ここまでの説明は交流電圧でしたが,交流電流も同様にベクトルで表されます(問題(a)でやります)

(前提3)三相交流回路から単相交流回路への変換

三相回路って、電源も負荷も3つずつあってめんどくさいですよね。なので、できるだけ電源も負荷も1つずつにして考えます。
具体的には、電源が対称三相交流電源で、負荷が平衡三相負荷の時、電源と負荷の中性点をつないで1相分だけ取り出した単相回路で考えることができます。

上の図で、左の回路の上の部分と右の回路は同じ振る舞いをします。つまり電圧E・電流I・消費電力Pが等しいということです(三相の全消費電力はというと,負荷が3つあるので3倍すなわち3Pになります)

(前提4)三相電源のスターデルタ変換(Y-Δ変換)

(前提3)で「電源と負荷の中性点をつないで」って言いましたが、問題文では線間電圧だけが示され、電源の中性点が見当たりません。こんな時は、中性点があって同じ働きをする回路(等価回路)に書き換えます。
線間電圧V [V]の対称三相交流電源をそのまま図にすると下の図の左の回路になります。問題の図の「400V」という文字のように縦に並べて書いてもいいのですが、各線間電圧が同じであることが分かりやすいように正三角形で書いてます。
回路が三角形なので、デルタ結線(Δ結線)といいます。

これを中性点のある等価回路に書き換えたのが右の回路です。中性点を正三角形の真ん中に書き、電源を線と線の間ではなく、線と中性点の間に書きます。
回路の形から、スター結線(Y結線)といいます。
この時の電源電圧の大きさE [V](相電圧といいます)は、線間電圧の大きさVとは違う値,具体的にはE=V/√3になります。V=400 [V]ならE=400/√3≒400/1.73≒231 [V]です。
これは公式として覚えてもいいですが、下図のように2つの等価回路を重ね,内角30°,90°,60°の直角三角形の辺の長さが1:2:√3になることを利用して、辺の長さが電圧に対応すると考えるといいです。

(前提5)変流器とは

変流器は、CT(Current Transformer)とも呼ばれ、主回路に流れる大電流を、計測に適したほどほどの電流に比例変換する装置です。この問題では、変流比20:5なので、主回路に20A流れたときに計測回路に5A流れ、主回路10Aのときは計測回路2.5Aとなります。
基本的には変圧器と同じものですが、主回路(変圧器のようにいうと1次側)になるべく影響を与えず、計測回路(2次側)でなるべく正確に測定できるように、構造上の工夫がされています。

(a)

主回路の電流が10A,変流比が20:5なので,変流器の計測回路側に流れる電流は(前提5)の通り2.5Aです(10A:2.5A=20:5)
計測回路を抜き出すと下の図のようになります。変流器は大きさ2.5Aの電流を流す電流源とみなせます。

電流は途中で消えたりしないので,変流器2台の合流点に注目して,2.5+2.5=5.0 [A]……とはならないのが(前提2)で説明した交流の世界です。主回路の位相は計測回路にも反映されるので,2台の変流器の電流にも120°の位相差があります。

矢印(ベクトル)で書くと右の図のようになり,2台の変流器の電流を足した電流は,大きさ2.5A,位相は2台の変流器電流の真ん中になります(2つのベクトルの足し算は,2つの矢印の根元を同じところに書いて平行四辺形を作ったとき,その対角線になります)
電流計は電流の大きさだけを測る機械なので,電流計の指示値は2.5A,解答は(2)です。

(b)

計測回路は主回路に影響を与えないようにできてるので,主回路だけで考えます。
三相交流はめんどくさいので,(前提3)を使って単相回路にしましょう。単相回路にするには,電源も負荷もスター結線じゃないとなんないので,ますは(前提4)を使って電源をスター結線に変換します。

電源は線間電圧V=400Vのデルタ結線なので,スター結線にすると
相電圧E=V/√3≒400/1.73≒231 [V]

となります。

ということで,(前提3)を使って単相回路にすると,電源電圧231Vに,抵抗R [Ω]と誘導性リアクタンスX [Ω]が直列になった負荷がつながって,電流10Aが流れている回路(下図右)になります。
三相回路の全消費電力が6kWということは,抵抗3個の消費電力が6kWですから,抵抗1個あたりの消費電力は6kW÷3=2kW=2000Wとなります(リアクタンスは電力を消費しません)

ここからは,電気回路の問題における定番の解き方として,回路の一部に注目して,数字で与えられている量を使って文字で与えられている量を求めていきます
たとえば,抵抗に注目したとき,電流と電圧がわかっていればオームの法則を使って抵抗を求めることができ,電流と消費電力がわかっていれば電圧を求めることができます。

実際にこの回路の抵抗Rに注目してみましょう。

まず,電流と消費電力がわかっているので,消費電力の式を使って電圧を求めます。
 電圧[V]×電流[A]=消費電力[W]
 VR[V]×10[A]=2000[W]
 VR=200[V]
電圧がわかったので,オームの法則を使って電圧と電流から抵抗を求めると,
 R=VR[V]÷10[A]=200÷10=20[Ω]
となります。

次にリアクタンスXに注目……といいたいところですが,RとXを合わせた部分に注目したいと思います(どちらに注目してもいいのですが,個人的にはこちらの方が直感的にとらえやすいと思います。リアクタンスXに注目した解き方は蛇足で)
RとXを合わせた部分の合成インピーダンスをZ[Ω]とすると,(前提1)の最後に書いたようにオームの法則が使えるので,

インピーダンスZにかかる電圧は電源電圧そのままで231V,電流は10Aなので,インピーダンスの大きさは231V÷10A=23.1Ωです。

インピーダンスの合成は下の図のようになり,

 R^2+X^2=Z^2
 20^2+X^2=23.1^2
 400+X^2=533.61
 X^2=533.61-400
 X=√133.61
 X=11.55
となり,解答は(1)です。

(蛇足)

R=20[Ω]がわかった後,合成インピーダンスではなくリアクタンスXに注目して解いてみましょう。

Xに流れる電流は,回路に枝分かれがないのでRに流れる電流と同じく10Aです。
Xにかかる電圧は,抵抗にかかる電圧200Vを足して電源電圧231Vになるので31V……ではなく,交流なので(前提2)で説明したベクトルで考える必要があります。Xにかかる電圧のベクトルVXと抵抗にかかる電圧のベクトルVRを足して電源電圧のベクトルVになる,ということです。
VRの大きさは200V,Vの大きさは231Vですが,位相はどうでしょうか。
抵抗にかかる電圧は,その抵抗に流れる電流と同じ位相になります。すなわち,VRの位相はIの位相と同じ,VRの矢印の向きはIの矢印の向きと同じになります。
電源電圧の位相は,電流の位相と決まった関係はありません(電源につながったインピーダンスによって決まります)
リアクタンスにかかる電圧は,そのリアクタンスに流れる電流を基準にすると90°進んでいます(電圧を基準にして電流が90°遅れているとも言えます)。VXの矢印の向きは,Iの矢印の向きから反時計回りに90°回した向きとなります。
以上を図にすると下のようになります

あとは三平方の定理で,
 200^2+VX^2=231^2
 VX^2=53361-40000=13361
 VX≒115.6V
リアクタンスXでオームの法則を使って,
 X=VX÷I=115.6÷10=11.56

ということで,解答の(1)を導けました。

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