呉座勇一と国際日本文化研究センター(その4)

(記事「呉座勇一と国際日本文化研究センター(その3)」から続く)

今回は、国際日本文化研究センター(日文研)助教だった呉座勇一の鍵垢の悪質な非対称性や、停職1か月という懲戒処分の当否について取り上げる。
前回記事の予告で書いた「鍵垢を中心とした界隈」の問題まで話を広げるつもりだったが、それは次回以降に回すことにした。

なお、ネットには、「呉座界隈」を呉座に同調していた均質な集団と理解している人がいるかも知れない。
しかし、私は今年3月、最初の記事「呉座界隈問題と私のTwitter夜逃げ(その1)」で以下のように書いた。

読者には人間関係を「敵か味方か」「白か黒か」というような単純な構図で理解しないでほしい。
実際はもっともっと、誰にもすべては分からないくらいに複雑だ。
「呉座界隈」呉座の鍵垢をすでにフォローしている垢(とそれら垢と行動をともにする垢)くらいの意味で用いることにする(あくまで私なりの定義であり、異論も有り得るだろう)。
〔…〕
ただし〔…〕、呉座界隈は決して一枚岩の均質な集団でなかった。

他の人はともかく、少なくとも私の「呉座界隈」についての理解や定義は以後の記事でも一貫してこうなので、誤解しないでほしい。

悪質な非対称性の判定基準

私は今年3月の最初の記事「呉座界隈問題と私のTwitter夜逃げ(その1)」以来、呉座の鍵垢利用は悪質だったと繰り返し主張してきた。
しかし、鍵垢での陰口が常に悪質かというと、そうとも限らないだろう。
判定基準となるのは、次の3つくらいでないかと私は思っている。

第1は、「鍵垢のフォロワー数」。
極端な例ではあるが、仮にフォロワー数が0であれば、どんな陰口を鍵TWしようとも他人の目に全く触れないため、悪質でない(「陰口」と言い得るかも不明)。
悪質となるのは当然フォロワーがいて、しかもその数が多い場合だ。
とはいえ、フォロワー数がいくつ以上であれば悪質かを明確に区切ることはできない。
また、「フォロワー数が少なければどんな陰口でも許される」とかいうこともない。

第2は、「陰口の内容」。
ちゃんと根拠があり、厳秘されるべき秘密を曝露したりしておらず、表現なども適切なものであれば悪質でないだろう。
しかし、内容に問題がないかどうかは陰口を言われている相手に確認しないと判断できないことなども多いので、難しい。

そして第3は、「陰口相手との関係」つまり権力勾配の有無や大小だ。
陰口の相手が自分より弱ければ悪質だが、強ければそこまで悪質でないだろう。
ただし、強い弱いは判断しづらいことがあり、また「強い相手についてはどんな陰口でも許される」とかいうこともない。

このように複数の要素が絡み合うため、ある鍵垢での非対称な陰口が悪質かを判定することは通常、容易でない。
事案によっては第4の基準なども導入すべきだろう。

だが幸か不幸か、呉座鍵垢私についての鍵TWが悪質だったことは、判定に悩む必要がないくらいに明らかだ
第1に、呉座の鍵垢はフォロワー数が3千数百だった。
この数字はどう考えても十分に多い。
第2に、呉座の私についての鍵TW(2019年3月下旬以降、含む鍵引用RT)は、(西村玲氏関係のもの2つを除いて)すべて誹謗中傷揶揄罵倒だった。
そして第3に、呉座は私より3歳年長で、その影響力は私などと比較にならないほどに強大だった。

そもそも、呉座と私はどちらも研究者だ。
正々堂々と議論すべき研究者が他の研究者を陰で批判し、反論させないということはそれだけでも悪質だ
しかも、私についての不当な悪評が反論できないまま拡散されただけでなく、呉座の鍵引用RTに煽動された界隈のファンネルたちまで襲来したのだから、文句なしだった。

このことは以下の説明だけでなく、次回の記事にも関係してくる。

日文研との第3次接触

先日から何度か書いているように、呉座は今年9月までが任期のテニュアトラック助教であり、翌10月つまり昨月付で日文研の機関研究員になった。

私はこれを知った当時、「あぁ、テニュア審査を通過しなかったんだな」と思った。
しかし、日文研からは他に何の公式発表も個別連絡もなかったので、私は「呉座についての調査結果はどうなったんだろうか」とも思った。
「日文研は呉座を懲戒審査の対象にしたけど、結局は処分なしにしたんだろうか。それとも、処分したことを公表しないつもりなんだろうか」、と。

そこで私は、同月12日に日文研の某職員(前々回記事参照)にメールでこう問い合わせた。

第3次接触

「私の実名付きで」の公表を希望したのは、名前を売りたかったからでなく、
呉座により売られてしまった不当な悪名を回収したかったから。
今年3月の記事「呉座界隈問題と私のTwitter夜逃げ(その1)」参照。
https://note.com/mshin0621/n/n9a332859c9f0

某職員からは、誤解させてしまったようだがもともとあの報告書を公表する予定はなかった、との返信があった。
私は翌13日、そうですか分かりました、という趣旨の(しかし付け足しが長い)メールを返信した。
日文研との第3次接触は以上。
当時は、その2日後の15日に日文研(と機構本部)から公式発表があるとは思っていなかった。

10月15日に日文研(と機構本部)が呉座への懲戒処分について公式発表したのは、
9月13日からの停職期間1か月が終了したためだろう。
私からのメールがあって急遽2日後に公表することにした、とは考えられない。

結果と教訓

第3次接触では、それまでと異なり私が日文研に接触したくて接触した。
報告書の公表を希望した理由は、「テニュア不付与」とか「処分の有無や量定」とかいう結果の公表だけではその意味が誤解曲解されてしまい、教訓が正しく共有されないだろうと考えたからだ(そして、実際に誤解曲解された)。

私個人としては、報告書の公表でなくても、せめて「学術論争は対等かつ公開されたものでなければならないため、SNSの非公開アカウントで「自分がどう言われているのかを知る権利」や「それに反論する権利」を奪って非対称に他の研究者(の研究)を批判することは悪質であり、研究者としてあってはならない」というような新しいSNS利用指針の公表でもよかった(と、某職員への長い返信でも書いた)。
もちろん、日文研からそのような指針が公表されたところで、それが最高裁判例のような効力をすべての研究者に発揮するわけでない。
しかし少なくとも、今年3月にこの一件が露見して以来「確かに女性蔑視は社会人として問題だが、呉座さんは鍵垢で研究者として恥ずべきことはしていなかった」みたいなことを言っていた(元)呉座界隈の研究者たちの何人かに、反省を迫ることくらいはできただろう
再発防止策の一部にもなる。

私のこの(勝手な)期待は、日文研の同月15日付「国際日本文化研究センター研究教育職員に対する懲戒処分等について」によって裏切られた(前々回記事参照)。
日文研はSNS利用指針として、旧来の「国際日本文化研究センター教職員が個人でソーシャルメディアを利用する場合の注意点について」(令和2年10月8日)を維持するらしい。

今回の一件は明らかに、呉座のヒ垢が施錠されていたからこそここまでの大事件になった
ジェンダー関係の一連の不適切なTWにしても、もし公開されていれば初期の軽微なものがすぐに批判されて小火として鎮火し、大炎上には至らなかったろう。
なのに、非公開垢というものの存在にすら言及しない旧来のSNS利用指針を維持して、一体どうするつもりなのだろうか。
日文研は今回の一件からほとんど何の教訓も得なかったように、私には見える

停職1か月という懲戒処分の当否

私は前回記事の末尾で、次回記事では停職1か月という懲戒処分の当否についても取り上げると予告した。

その翌日、呉座が人間文化研究機構(機構本部)を相手取って無期雇用の地位にあることを確認する訴えを京都地裁に起こした、との『京都新聞』10月29日付報道があった。
この訴訟が今後どういう展開になるかは、誰にも分からないだろう。
とはいえ予告通り、呉座への停職1か月という懲戒処分が妥当なものかどうかについて、公表されている情報に依拠して私見を述べたい。

以下はあくまで私見であり、機構本部の見解などとは関係ない(そもそも私は機構本部の見解なんて知らない)。
もしどこかおかしなところなどがあれば、記事末尾のGoogleフォームから教えてほしい。

なお、『京都新聞』の
「訴状によると、呉座氏は〔…〕、今年10月から任期のない定年制の資格を与えて
助教から准教授に昇格する決定を1月12日付で受けた」
という報道に驚いた人もいるようだが、あれはそこまでの新情報でない。
「人間文化研究機構テニュアトラック制に関する規程」(令和030614日 改正)にこうある。
「テニュア付与に係る審査は、原則としてテニュアトラック期間が満了する9月前までに
終えるものとし、機関の長は、審査結果について、機構長へ報告するとともに、
すみやかにテニュアトラック教員に通知するものとする」(第7条第8号)
https://www.nihu.jp/sites/default/files/regulation/kh-46.pdf

機構本部の10月15日付「職員の懲戒処分について」は、処分理由をこう説明している。

当該研究教育職員は、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)において不適切な発言を繰り返し行った。
また、勤務時間中に私的な利用目的で複数回にわたってSNSに投稿した。
これらのことは、人間文化研究機構職員就業規則第23条及び第26条第2号に違反し、同規則第36条第1項各号に該当することから、懲戒処分を行ったものである。

そして、ここで呉座が違反したとされている「人間文化研究機構職員就業規則」(令和02年01月27日 改正)の第23条と第26条第2号は、それぞれ職員の職務専念義務信用失墜行為禁止について規定している(後述)。
ただし、処分理由が「不適切な発言」「私的な利用目的」の順で挙げられていることから、停職1か月という懲戒処分の量定の過半を占めたのは前者だろうと推測できるため、こちらから取り上げていくことにする。

信用失墜行為禁止と不適切発言

人間文化研究機構職員就業規則」第26条第2号は、信用失墜行為禁止についてこう規定している。

職務の内外を問わず、機構の信用を傷つけ、その利益を害し、又は職員全体の不名誉となるような行為をしてはならない。

呉座の鍵TWが不適切なものだったことを、私はこれまでに繰り返し説明してきた(直近ではこの記事の前半と前回記事)。
言及できていない不適切な鍵TWも数え切れないほど多くある。
『京都新聞』の報道によれば、呉座本人もTWが完全に適切だったとまでは主張しないようだ。

ここでもやはり重要なのは、呉座のヒ垢が施錠されていたということだろう
今年3月以来、「研究者Aもヒ垢で不適切なTWをしているのに処分されず、呉座さんだけが処分されるのはおかしい」とか「研究者Bもヒ垢で不適切なTWをしているから、呉座のように処分されるまで追い込もう」とかいう声が散見される。
しかし、それら研究者たちのヒ垢はどれもこれも公開垢なので、呉座の鍵垢とは比較にならない。

「あのくらいの不適切発言なら内輪の研究会や居酒屋の飲み会でよくある」という声もある。
だが、呉座鍵垢のフォロワー数は3千数百だったので、内輪の研究会や居酒屋の飲み会とは
比較にならない。
また、声による発言は音速で消えてしまうが、SNSでの発言は削除されない限り
(目立たなくなるだけで)いつまでも残存するため、やはり比較にならない。

呉座の不適切なTW一つ一つを見ると、停職1か月という懲戒処分の量定の過半を占めるほどに不適切なものはないだろう。
停職よりも軽い減給や戒告、または処分未満の厳重注意くらいで済みそうなものもある。
しかし、それらの「個別にはそこまで不適切でないTW」も数年分の数十や数百が一斉に露見し一挙に審査されれば、全体としてあまりに不適切だとされ重い処分になることは自然だと考えられる

同じように、匿名公開垢の中の人が「あの大学のあの専任教員だ」と身バレすれば、
過去のTWすべてが一挙に審査されて重い処分が下されやすくなるだろう。

なお、かなり言いづらいが、呉座が今年3月に鍵垢を解錠したことは、結果としてその処分をより重くしてしまったのでないだろうか。
もちろん、呉座の解錠によって魚拓という動かぬ証拠を押さえることが可能になり、真相の究明と被害者たち(含む私)の救済は大いに進んだ。
言い逃れや証拠隠滅を中断し、(まだ削除していない)過去のTWすべてを誰でも検証できる状態にしたことも、潔いと言えば潔い。
しかし、解錠によって本来なら(それ以上)傷付けずに済んだ被害者を傷付け、日文研(と機構本部)の信用をより失墜させたことも事実だ。
あそこまで追い詰められた時に呉座がどうすべきだったかについては、議論する余地があるように思われる

「呉座は解錠せずに鍵垢の管理権を日文研に委託し、調査結果が出るのを待てばよかった」
というのも一案だろう。
だが、その日文研の単独調査が信頼できるものになっていたかは疑問だ。

職務専念義務と裁量労働制

人間文化研究機構職員就業規則」第23条は、職務専念義務についてこう規定している。

職員は、この規則又は関係法令の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、機構がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。

これについて、「裁量労働制だから勤務時間は特定できないのでないか」という声があるようだ。
裁量労働制については私も(大学の専任教員を3年間やっていたくせに)よく知らないのだが、藤巻和宏の今年3月4日付「「大学教員はみな裁量労働制である」という誤解」によると、かなり誤解されているらしい。

日文研の人事規則に「4-32 国際日本文化研究センターの管理又は監督の地位にある職員及び専門業務型裁量労働制に関する協定書第2条に掲げる職員の勤務時間の記録にかかる申合せ」(令和3年3月19日 改正)と「4-33 国際日本文化研究センターの研究教育職員以外の職員の勤務時間の記録にかかる申合せ」(令和元年7月10日 制定)がある。
呉座は研究教育職員なので後者は無関係であり、前者第2条は裁量労働制の対象者を「所長」「副所長」「研究調整主幹」「情報管理施設長」「専門業務型裁量労働制に関する協定書第2条に掲げる職員」に限定している。
日文研の「専門業務型裁量労働制に関する協定書」は公開されていないようだが、所長や副所長でない助教の呉座は恐らく裁量労働制の対象外だったろう
仮に対象者だったとしても、前者規則第3~第5条は対象者に勤務時間記録簿を提出させて10年間保管することとしているため、日文研は勤務時間を特定可能だ。

他方、「勤務時間中に私的な利用目的で複数回にわたってSNSに投稿している大学教員なんていくらでもいるじゃないか」という声もある。
だが、勤務時間中の職務専念義務やSNS利用についての規則やその運用は大学や研究機関によって区々なので、やはり単純には比較できない。
勤務先の目を気にしてヒ垢を匿名や非公開にしている大学教員もいる。
また、過去数年間の職務専念義務違反が一斉に露見し一挙に審査されれば、懲戒処分の対象になっても不自然でないだろう

(次の記事に続く)

予告

あと2回くらいで完結するつもり。
次回記事は「その5」でない。

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最後まで読んでくださりありがとうございました。