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アルミ価格のフォーミュラ化 (2)

 アルミ価格のフォーミュラ化 後編です。

前回の記事では、

NSP:アルミ地金価格
RM :ロールマージン(材料メーカー工賃)

の二つの要素によって、アルミの売買価格が決まるお話をさせて頂きました。
この何十年と続いてきた伝統が覆ったのが、
2022年8月にアルミ材料業界から打ち出された、

【アルミ価格のフォーミュラ化】

です。

 従来の地金相場価格連動方式に加え、

特定元素の原材料価格を反映させる

という新要素が追加されたのです。
対象となる特定元素は、下記のようになります。

Mg (マグネシウム) : 耐食性・機械強度を向上
Si (シリコン)   : 耐摩耗性の向上、熱膨張の抑制
Mn (マンガン)   : 高温強度の向上、FeやCuによる腐食抑制
Cu (銅)       : 高温強度、切削加工性の向上
Zn (亜鉛)      : 鋳造性、Mgと共存して機械的性質底上げ

特定五元素

さて、どこに基準を置くか?
ということで、アルミ業界が基準点としたのが、2018年8月から2021年7月までの3年間の平均相場です。
2018年~2019年ぐらいまでは、ここ50年ぐらいの材料相場の平均値ぐらいで推移していましたので、基準期間として考えるのは納得できるところではあります。

その価格として、材料メーカーの一つである 白銅株式会社では、

・Mg:261円/kg
・Si:208円/kg
・Mn:218円/kg
⇒ 白銅がアルミメーカーと合意した第三者が提示した指標価格

・Cu:768円/Kg ⇒ JX金属社「銅建値月間平均推移」
・Zn:325円/Kg ⇒ 三井金属鉱業社「電気亜鉛建値月平均推移」

白銅HPより

を公開しています。

さて、従来の基準値であるNSPは三か月間の平均相場でした。
今回の特定五元素については、 半年間の平均相場 とするようです。

最初のフォーミュラ化が8月まででしたので、今後は、

2022年9月~2023年2月 の半年間 が 計算期間
2023年4月~2023年9月 の半年間 が 適用期間

2023年3月~2023年8月 の半年間 が 計算期間
2023年10月~2024年3月 の半年間 が 適用期間

以後、繰り返されていくという感じです。

なお、この特定五元素の価格のことを

BM(ベンチマーク)価格

と呼ぶそうです。
白銅さんのHPに記載されていた参考価格が、

・Mg:261円/kg  ⇒ 674円/kg   2.58倍
・Si  :208円/kg  ⇒ 443円/kg   2.13倍
・Mn:218円/kg  ⇒ 354円/kg   1.62倍
・Cu:768円/Kg  ⇒ 1,241円/kg   1.62倍
・Zn:325円/Kg  ⇒ 538円/kg    1.66倍

白銅HPより

という感じです。
添加物は、パーセンテージが低いんですけれども、ここまで高騰しちゃうと影響が表に出てきちゃうんでしょうね。

さて、計算式に入っていきます。

A2017 ジュラルミン と呼ばれる 高強力アルミニウム を使って計算してみましょう。

添加物は、Mg :0.6%  Si:0.5%  Mn:0.7%  Cu4.0% です。

Mg:(674円/kg - 261円/kg )× 0.006 = 2.478円/kg
Si :( 443円/kg - 208円/kg )× 0.005 = 1.175円/kg
Mn: ( 354円/kg - 218円/kg )× 0.007 = 0.952円/kg
Cu: ( 1,241円/kg - 768円/kg )×0.04 = 18.92円/kg

これを合算すると、23.525円となります。

ここで、

5円刻みルール

というのが、発動するそうです。

22.50円以上 27.50円未満 は、25円に収束させる

というものです。

上記の計算例以外で言うなら、
12.49円は10円になり、
12.50円は15円になる
ということです。
わずか一銭の差なのですが、5円もの差になるんですね。
(あな恐ろしや~w)

いずれにせよ、この新ルールの影響で、

NSPが -60円 になっているのに、
BMが  +25円 になるので、
10月からの下げ幅が縮小され、-35円になってしまったんですね。
ここに、RM上昇の話をするところもあるので、

10月になっても、アルミ価格が、ほとんど下がらないじゃないか!?

というお話になったのです。

ここから、発注を抑えて耐えに耐えていた各メーカーが態度を変更。
10月になって品薄で材料納期が延びるのを嫌い、発注を決断するようになったのです。
下げ幅を見て、待つ意味がない、となったんですね。

こうして・・・

10月まで閑古鳥が鳴くだろうと想定していたのが、9月からドタバタし始めるという嬉しい誤算となったのです。
もっとも、需要の先食いみたいなものですから、反動でどうなることか・・・

われわれ町工場は、川面に浮かぶ笹船のようなものです。
川の流れに流されるだけ。
上手く流れに乗ることこそ肝要ということですね。

さあ。今日は台風が来る前に休日出勤です。
超短納期案件に対応していかなくては!

しがないオッサンにサポートが頂けるとは、思ってはおりませんが、万が一、サポートして頂くようなことがあれば、研究用書籍の購入費に充当させて頂きます。