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射出成形金型の寸法(収縮率計算)

 前職でお世話になったお客さんと、会食しました。

満マル住道店で、串カツにビール3杯ひっかけた後、歩きで巣本にある釈迦力へ・・・

日頃の運動不足もあり、めっちゃハードでした。w
ビールの影響もあるのかな???
googleマップでは、 3.6Km 45分 となってますね。

飲みながらの昔話。
その中で、お客さんが、成形収縮率に関して計算式に納得がいかない、とご立腹されていました。

で、そのお話を伺ったのですよね・・・
D:金型寸法
M:成形品寸法
S:収縮率
として、

世間一般では、

D=M(1+S)・・・(1)

で計算されている。
これは、おかしい! というのが、お客さんの言い分です。
式変形してみると

D=M+MS
MS=D-M
S=(D-M)/M

となり、Mで割り算するなんてありえない!?
というもの。

確かに、お客さんの言う通りです。

ちなみに、S:収縮率とは、なんぞや!? となると思いますので、軽く説明すると・・・

樹脂(プラスチック)で製品を成形する場合、高熱で溶融させて型に流し込み、冷却して固化させ、形にするのですが・・・
熱い物質が冷却されることで、体積が小さく収縮してしまうんです。
だから、成形段階での金型寸法は、縮み代を見込んで大きめに作っておかないと、完成した製品の寸法が小さくなってしまうんですね。

そのため、金型段階で樹脂の銘柄ごとに収縮率を掛け合わせて金型寸法を設定する必要があるのです。

で、本来の収縮率の計算式は、下記のようになります。

S=(D-M)/D

式変形させると、
DS=D-M
D-DS=M
D(1-S)=M

D=M/(1-S)・・・(2)

D=M(1+S)・・・(1)
D=M/(1-S)・・・(2)

(1)式と(2)式は、明らかに別物です。
JIS規格でも(2)が正式とされているのに、なぜ、(1)が使われているのか? 納得がいかない!

ということでした。

私も射出成型金型業界から離れて二十数年。
当時の記憶を辿るのに大分時間がかかりましたが、どうにかこうにか説明をし、お客さんも納得され、喜んでおられました。

回答は、おおむね下記のようになります。

(1)式は、キャビティ(メス型)の計算式として使っていました。
コア(オス型)の計算式は、(2)式でした。

なぜ、こういう計算が行なわれているかについてですが・・・

D=M(1+S)・・・(1)
D=M/(1-S)・・・(2)

仮に、S=0.05とします。
成形品寸法M=100が欲しいとすると・・・

(1)式で、キャビの寸法は、D=100x1.05=105になります。
(2)式で、コアの寸法は、D=100/(1-0.05)=105.263になります。

計算上、(1)式は常に(2)式よりも小さな数字になります。
なぜ、こんな計算の仕方をするのか? というと、

金型の加工公差や、理論収縮率等、”現場に即した考え方”をしているからです。

理論収縮率は、0.03~0.05といった感じて幅をもって表現されます。
これは、ゲートの位置や直径、形状。
冷却によって生じる熱分布のムラ、保圧のかけ方等々、様々な条件に拠り、ブレ幅があるためです。

ですから、おおよその寸法までは設計段階で肉薄できるものの、最終的には成形条件出しを行ない、実際に製品を成形して、それを測定した後、フィードバックして金型寸法を修正することになるわけです。

その際、金型加工を行なう現場としては、金型を ”削る方向” で、修正したいわけです。
修正したいが、”削れない” となると、肉盛り溶接や、ブッシングによって、新たに削れるものを準備しなければならなくなるからです。

そこで、キャビティは小さい数字、コアは大きい数字になるように計算するようになったのです。
その際、でたらめな数字すぎると修正で削る量が大きくなりすぎるので、理論値に近く、理論値に沿った形で調整できるよう、(1)式が編み出されたわけです。

なお、コアの方を理論値で計算するのは、成型後収縮で安定的に張り付くのがコアになるからです。
ここで、しっかりと冷却を行ない、後収縮を減らし熱分布を均一化させて離型させると、限りなく理論値に近い製品になりやすいのです。
だから、コアは理論式で計算するということになりました。

その後、引き算と割り算で構成される理論式(2)よりも、足し算と掛け算で構成される式(1)の方が使い勝手が良く、計算間違いしにくい、ということで、(1)式だけが独り歩きするようになり、一般に広まり定着してしまったのです。

だから、お客さんがおっしゃられる 理論式(2)の方が正しいのです。
が、キャビティの修正代を勘案すると、式(1)で計算した方が、何かと都合が良い、ということになるわけです。

こうして、お客さんはいたく感動され、有意義だったとして閉幕しました。

しかし・・・串カツのあとの釈迦力(疑似二郎系ラーメン)は、胃にこたえるのです。。。

うー、お腹がー、張るー、キツイー

と言いながら、家路に着いたのでした。チャンチャン

しがないオッサンにサポートが頂けるとは、思ってはおりませんが、万が一、サポートして頂くようなことがあれば、研究用書籍の購入費に充当させて頂きます。