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公差設定の誤謬

 見積案件で、たまに見かけるのが、公差設定の誤謬です。
下の図は、アルミ押出形材の加工見積図です。
押出形材の場合、右側の断面形状で、”ところてん”や”パスタ”のように、同じ断面形状で押し出されてきます。
自宅にある”アルミサッシ”や、”アルミ手すり”を見て頂くとイメージしやすいと思います。

難易度の高い公差設定

今回の事例は、”誤謬”とするには、酷かもしれません。
必ずしも加工不可能というわけではないからです。

この事例は、押出形材であることと、量産加工品であることによって
発生するコスト面では不利となる誤謬というものだからです。

この公差設定では、コストは普通に考えると増加します。
(一般的な加工屋さんであれば、
・ここの公差出しにくいですよ~、と親切に言ってくれるか、
・ガン無視して話を進め、品管段階でこんなの出るわけないでしょ? 
と言う感じでしょうね。)

なお、ウチは前者なため、資材担当者から迷惑がられます。(涙)

穴位置公差±0.10mmって、機械精度で十分出るでしょ?
と、単純にそこだけに目を奪われがちです。

この場合、基準となる穴の直径に指定された公差が問題を引き起こします。
φ20±0.20mmという穴は、押出形材として、すでに仕上がっている穴になります。
つまり、φ19.80mmからφ20.20mmまでの範囲で、穴の直径に変動があるということになります。
その差、0.40mmです。
一方、図面による穴位置公差は、50±0.10mmですから、49.90mmから50.10mmとなり、0.20mmの範囲内で加工を行なわなければいけません。

一点モノである場合は、ワークを測定し、押出形材の穴中心に合わせて原点を取れば、問題なく公差範囲内の穴加工が出来ます。

でもこれ、数が500個とか1,000個あったらどうなりますか?

毎回毎回、ワークの寸法を測定して、その都度、穴中心位置を求めてから、加工しますか?
そうなると、量産メリットは無くなります。
500個でも1,000個でも、1個の時とあまり変わらない単価を請求されることになります。
そんな金額提示がなされれば、多くのお客さんは怒り出します。

だから、最初に”公差の誤謬”をご説明します。
面倒くさがって聞いてくれないお客さんもいらっしゃいますが、それでも、説明はします。

そこまでしたとしても・・・。
公差設定を変えないというお客さんは、一定割合で存在します。
その場合は、二通りのお話をさせて頂きます。

・公差を保証しない形にして、出来るだけ安い御見積計算をする。
・公差を保証する代わりに、割高な御見積をする。

実際問題として、量産加工時に公差保証しながら加工できるの?
と言われると、一応、出来ることは出来ます。

その方法は、φ20.00 と φ19.80のピンをはめ込める治具をつくり、
そこから位置を割り出させるというものになります。

なお、円錐型のピンで両サイドから挟み込んで位置決めをするという方法もあります。
その場合、円錐型のピンを製作しないといけないのですが、弊社では旋盤加工機を保有しておりませんので、どこかにお願いしないといけなくなります。
また、この方法の場合、チャック時に難が発生することがあります。

チャック安定性と保有設備機械の関係上、市販材の丸ピンを用いるという選択をしているわけです。

で、大きい直径の治具から順番に加工を進めていきます。
(理由は、小さいピンからだと、全てのワークが通過してしまうからです。)

最初のピンは、φ20.00からφ20.20のワークを対象にすることが可能となります。
差は0.20mmですから、上下幅を意識した位置設定をすれば、丁度±0.10mmに収まります。
(あくまでも理論値になるので、加工上の安全を見る場合は、0.10mm刻みを採用すると思います。つまり、2倍の4種類のピンと治具を製作。)
なお、φ20.00のピンが入らないワークは、別の場所に一時保管しておきます。

その後、別の場所に保管していたワークに対し、今度はφ19.80mmのピンと治具を使って再度加工ラインに流していきます。
(後の展開は上述と同じになります。)

このようにして、治工具や工法を工夫すれば、
毎回測定して、押出形材の中心位置を割り出すよりは、安上がりに生産が可能になります。

ただ、このやり方でも、コスト増にはなります。

他にも色々な方法があるとは思いますが、設計上のほんの些細な公差設定から、加工品のコスト増加や、公差外れが発生した場合の品管業務の増加等々、様々な点で好ましくないので、出来れば、設計段階で公差指定を変える方が良いだろうと思います。

大したお話ではないのですが、たまたま御見積依頼の図面の中に、こういった公差設定がなされたものを見かけましたので、何かの参考になればと思い、記録に残しておきます。

しがないオッサンにサポートが頂けるとは、思ってはおりませんが、万が一、サポートして頂くようなことがあれば、研究用書籍の購入費に充当させて頂きます。