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梯子外し

 ここしばらく、かなり頭を悩ませています。
企業向けのお話なので、個人の方にとっては現時点では無縁かと思いますが・・・

電気料金の値上げ

については、皆さんもご存知かと思います。
通常の電力契約であれば、ここ最近の天然ガス価格の高騰や円安の進行によって、1.2倍ぐらいの上昇になるかと思います。
一方、新電力と特別高圧や高圧方式で法人契約をしているところになると、話が全然変わって来ておりまして、今までの2倍から3倍ぐらいの価格提示を受けています。
これは相当に痛い上昇といえます。

ウチの会社の場合だと営業利益の大部分(70%)を電気代の上昇分で帳消しにされてしまいます。
さすがにそこまでの高騰を受容れるのは大変なので関西電力送配電さんとの契約に移行する準備を進めていたのです。
そこも高価格にはなりますが、新電力よりは割安となっていました。

ところが・・・

の記事にもありますように、今後は

「電力生産コストによる単価設定」ではなく「余剰電力卸市場価格」により、常にセーフティーネットが割高になるように制度を改変するというお話になってきているのです。

これは、私や他の経営者(新電力との契約をした法人)にとっては、

梯子を外された

格好になります。
(旧一電も新電力もどちらも契約変更の受付を停止している状態)
元々、旧一電の生産コストの1.2倍での最終保証があるから、新電力への契約をしませんか? というものでした。
私も日本電気保安協会という電気のプロからの奨めであり、何十年という長年の付き合いもあるので、最悪でも1.2倍なら許容範囲と判断したミスはありますが・・・

とはいえ、そもそものルールが、価格の天井知らず、という話になっていたのなら、新電力への切替を決断することは絶対にありません。

つまり、経済産業省が、初期の契約条項を一方的に破棄しているわけですから、我々が、新電力から旧一電へ契約を変更できない状況下において、こういうことをするのは、自由契約や市場の概念をぶち壊しにしていると思います。

もちろん経産省とて、初期の制度設計では、余剰電力が生産コストの1.2倍を超えるという想定をしていなかったのだろうと思います。
最終的な

原因は、余剰電力生産義務がないこと

に尽きます。
専門家や行政、政治家による多くの議論を参照してきて感じたことは、そもそも旧一電の電力製造元には「余剰電力を生産する義務がない」ことに問題があることに気づかされました。
※)停電を起こさないようにする義務はあります。

市場価格とは、需要と供給のバランスで決まるものです。
需要はあるのに、供給側が出し渋れば、否が応でも価格は上がります。
ましてや、新電力にはインバランスというペナルティ規約があります。
買い手にはペナルティがあり、売り手にはペナルティがない。
いびつな市場になっているわけですから、価格高騰が発生しても当然の帰結になるわけです。

さて。私が子供のころから電力自由化になるまでの間、一度として電力需給がひっ迫してブラックアウトになりかねないという報道を聞いたことがありません。

需給ひっ迫問題が登場したのは、電力が自由化されるようになって以後です。

どういうことかと言いますと、メカニズムは単純です。

  1. 総括原価方式であるため、旧一電は設備投資を積極的に行なった。

  2. 国策である原子力発電の設備投資もドンドン進めた。
    そのため、海外よりも割高な電気料金となり、法人の海外移転を後押しすることに繋がった。

  3. 電気料金の高さが取沙汰されるようになった。

  4. 電力を自由化すれば、余分な設備投資をしなくなるので、総括原価方式の概念上、電気代が安くなるとして電力が自由化されていく方向に。

  5. 実際に、老朽化設備は廃棄の方向に動くようになる。

  6. 東日本大震災以降、発電コストが低い原発の稼働が困難になった。

  7. ベースロードと設定していた原子力発電が停止したことにより、火力発電主体の運用になった。

  8. 旧一電は、余剰電力の製造を極限まで控えるようになった。

  9. 余剰電力が卸市場に流れてこなくなったため、新電力による余剰電力買いが熾烈を極め、実情よりも高単価な取引となっていった。

  10. 戦争勃発と急激な円安により、天然ガス料金が高騰。
    逆ザヤで倒産する新電力が急増した。

  11. 新電力は撤退を行なうか、卸市場の高騰分をユーザーに支払わせるかの二択を迫られるようになった。

  12. ユーザーが最終保証約款のある送配電に契約移行するものが急増した。

  13. 経産省は、電力自由化のシステム崩壊を認めず、セーフティネットの上限価格を撤廃することで、新電力との契約を企業に促し始めた。

とまあ、こういう流れです。

余剰電力が卸市場に流れるようにすれば、天然ガスの価格高騰分や円安分のコスト増はあるものの、卸市場による異常価格による市場崩壊局面は生まれません。

つまり、経産省が守りたがっている電力自由化システムが維持できるのです。

  • 旧一電に余剰電力の生産義務を課す

  • 原子力発電の再稼働要件を緩和する

  • 日本海に眠る天然ガス採掘技術を向上させるための予算を増額する

これで、随分とマシになるように思うんですけどね・・・
とりあえず、三つのうち、上二つをやれば、状況は一気に改善するはずです。


しがないオッサンにサポートが頂けるとは、思ってはおりませんが、万が一、サポートして頂くようなことがあれば、研究用書籍の購入費に充当させて頂きます。