「退屈でないものはすぐに飽きる」を英語で
好きな小説の英語訳を読んで、その表現の違いに驚いた。
読んだのは「海辺のカフカ」という村上春樹の小説。日本語⇒英語の過程で大胆なアレンジがなされている。
英語が母国語だという人にとって、セリフひとつの印象もだいぶ異なって伝わっているのかもしれない。
大島さんのセリフ
「海辺のカフカ」という小説に出てくる大島さんという人が印象深いセリフを言う。「この世界において、退屈でないものには人はすぐに飽きるし、飽きないものはだいたいにおいて退屈なものだ。」たしかにそんな気がする。「だいたいにおいて」は村上春樹がよく使うフレーズだ。
これを英語で読んだらどうなるのだろう。なんとなく自分で想像すると、「In this world, people soon get tired of the things not boring, and the things may not be tired is generally boring」くらいだろうか。日本語で言うのは簡単でも、英語で言うとなると難しい。
それにしてもいいセリフだ。たくさんの映画や音楽に触れてきた人にとっては金言のようでもある。
どう翻訳されたか
これがまた、英語版がすごい。フィリップ・ガブリエルという人による翻訳である。"People soon get tired of things that aren't boring, but not of what is boring."と書かれている。isだけ斜体で表記されていた。
まず「この世界」がばっさりカットされている。「だいたいにおいて」も消えてしまった。私はてっきり「だいたいにおいて」という村上語録は「generally」を日本風に言い換えているのだと思っていた。
あと、これは私のミスだが「things not boring」ではなく「things that aren't boring」で「退屈でないもの」を表現している。
嘘の嘘は本当
さらに面白いのは、「飽きない物は」の部分である。これを「not of what」ひとつで表現しているのだが、このwhatの中にget~aren't boringまでを詰め込んでいる。ふつうに考えるとwhat=things that aren't boringなので、「退屈でなくないものは退屈だ」みたいに変な読み方をしてしまいそうになる。
Googleに翻訳させると
英語版をGoogle翻訳に載せるとどうなるか。あえて英語⇒日本語を試す。
「人々はすぐに退屈ではないものに飽きますが、退屈なものには飽きません」
間違いではないが、ちょっと大島さんの言い方から離れてしまった。英語を第一言語とする人たちにはこう思われているのだろうか。what以降の部分をちゃんと自然に翻訳するGoogleは凄い。