【連載】mRNA医薬品研究最前線④「再生医療へのmRNA医薬品の可能性」
こんにちは。株式会社ARCALIS(アルカリス)です。
私たちの手がける「mRNA医薬品」という事業領域についてご紹介するこの連載。第4回となる今回は、mRNA医薬品による再生医療の可能性についてご紹介していきます。
1.再生医療とは
①再生医療の特徴と課題
再生医療とは、事故や病気などによって失われた臓器や組織を再生し、機能を回復することを目指す医療です。
根本的な治療法として、現在では幹細胞を利用した細胞移植治療が行われています。
一方で、再生医療には以下のような課題も残されています。
・特殊な培養施設が必要なため、医療費が高くなる
・細胞培養時の変性リスクによる安全性の問題
・自家培養時では供給スピードが遅く、早期治療の機会が失われる
②代表的な再生医療の例
再生医療に使われる幹細胞には、
体性幹細胞
iPS細胞
ES細胞
の3種類があります。
体性幹細胞とは、新しい細胞に分化して、組織を修復・再生する能力のある細胞のことをいい、さらにいくつかの種類にわかれます。
代表的な治療方法として、間葉系幹細胞を利用したものが実施されています。
iPS細胞とは、成熟した体細胞に複数の遺伝子を組み込むことにより、人工的に未分化状態に戻した幹細胞のことをいいます。
2014年に世界で初めて臨床研究が行われ、実用化に向けて多くの治験が進んでいます。
ES細胞とは、受精卵が胎児になる途中の胚にある細胞を採取して培養して作製した細胞で、不妊治療で使われなかった受精卵を許可を得て使用しています。
2019年に国内で初めて治験に成功しており、実用化が進んでいます。
③従来の治療法とその課題
現在行われている治療法では、患者さん本人から採取した幹細胞を生体外で目的の機能を持つ細胞に分化させて培養し、組織に移植することでその機能を回復させます。
患者さん本人の細胞を使用することで、移植後の拒絶反応をおさえることができます。
ただ、体性幹細胞はすべての細胞をカバーできるわけではなく、また体性幹細胞の増殖する能力(増殖能)に限界があり、体外での増殖・維持が難しいという課題もあります。
2.mRNA医薬品による再生医療の治療
mRNA医薬品による再生医療は、mRNAを細胞に注入し、失った組織の再生につながるタンパク質を発現させることによって行われます。
現在進んでいる研究から、2つの症例についてご紹介します。
①mRNA医薬品による心不全治療のメカニズム
mRNA医薬品による心不全の治療は、Modernaが研究を重ねています。
心不全は、心臓の欠陥が詰まったり、硬化したりすることによって起きる病気で、治療では血管を人工のものに置き換える手術が行われます。
両社の研究では、血管の再生をうながす「血管内皮増殖因子(VEGF-A)」を作るようコードされたmRNA(AZD8601)を、待機的冠動脈バイパス手術(CABG)を受ける患者の心筋に直接投与します。
その結果、mRNAの命令によってVEGF-Aの産生が刺激され、心臓の修復と再生を助ける細胞が産出されたという報告がなされています。
②mRNA医薬品による骨折治療のメカニズム
Mayo Clinicの研究者は、mRNA医薬品を骨の再生治療に活用しようとしています。
同社によるラットを対象とした研究では、骨の形成をうながす骨形成因子2(BMP-2)をコードしたmRNAを骨折部位に投与することで、骨の再生が促されることが確認されました。
また、治癒された骨は、本来の骨に匹敵する弾性や硬度を持つようになったと報告されています。
③mRNA医薬品での再生医療に向けた課題
mRNA医薬品による再生治療の研究では、一定の結果が報告されているものの、課題もあります。
mRNAによって発現できるのは、あくまでタンパク質だけです。組織の再生には、単一のタンパク質だけが関わるわけではなく、複数の要因が存在します。
発現したタンパク質を組織の再生につなげていくためには、組織が再生するメカニズムそのものの理解が必要となります。
そのため、これまで紹介してきたワクチンや医薬品と比べると、再生治療で十分な効果を得るためにはより高い技術が必要になると考えられています。
3.実用化に向けた研究の現状
最後に、実用化に向けた研究の現状について紹介していきます。
①心不全
心筋梗塞、心筋症、弁膜症、不整脈などが原因となり、最終的に至る症候群のこと。
■Moderna
・AZD8601
→VEGF-AをコードしたmRNA医薬品。
②骨折
ヒビや欠損、凹みなどにより骨が壊れる症状のこと。
■Mayo Clinic
→BMP-2をコードしたmRNA医薬品。
③変形性関節症
関節の間にある軟骨が擦り減り、関節の骨などが炎症や水がたまることにより滑らかに動かなくなる症状のこと。
■PrimRNA
→軟骨誘導に働く転写因子(RUNX1)によってコードされるmRNA医薬品。
4.まとめ
再生医療においても、mRNA医薬品の研究は活況を呈しつつあります。
今回紹介した、心不全や骨折治療、変形性関節症治療をはじめ、今後はさらに多くの疾患に対してmRNA医薬品が活躍する日が来るかもしれません。
ARCALISでは、mRNA医薬品の創薬支援・CDMOサービスをご提供しております。協業・ご依頼に関しましては、下記よりお気軽にお問合せください。