フリーランスの年金問題(後編)国民年金だけじゃ心配すぎる

「年金2000万円不足問題」が物議をかもすなか、孤高のフリーランスは蚊帳の外。国民年金には加入するものの、これだけじゃ老後の生活を支えられません。

そこで「わが身は自分で守れ! とにかく貯金するんだ」と言われても、預金利率は0.001%。貯金ではらちが明かないことは、もう誰の目にも明らかです。
「だから投資だ!NISAに、iDeCo。すばらしい制度を用意したじゃないか!」とお国は言うのでしょうか。仕方なくフリーランスは「定年もありませんから、死ぬまで働きます!」なんて言ったところで、不安がなくなるとは思えません。

そこで、安全に、ある程度お任せで、老後資金を作る制度を紹介します。

会社員さんらの厚生年金は、国民年金という基礎の上に、厚生年金という2階部分がのっています。フリーランスも、国民年金の上=2階部分に、積み上げるものがあるんです。

(1)国民年金基金

国民年金の2階部分として、まず考えられるのは国民年金基金です。

国民年金基金とは
①国民年金の加入者が、原則60歳まで加入できる(国民年金保険料の滞納がないことが条件)
②国民年金基金の老齢支給は原則65歳から。それまでに亡くなった場合などは、遺族一時金が支給される
③掛け金は所得控除の対象(節税できる)
④加入時の年齢などにより、掛け金と年金額が確定。原則、途中退会はできない
⑤終身年金を基本に、7種類から自由に設計できる。掛け金上限は月68,000円

掛け金が所得控除の対象であることは、公的な制度を選ぶ際の大きなメリットです。このあと紹介する小規模企業共済も、あるいはNISAやiDeCoといった国の勧める投資制度も、同じく所得控除の対象です。掛け金を支払っている今、節税できるので、フリーランスとしては大助かり。民間の保険にも生命保険控除などがありますが、控除額は所得税が年間4万円までと限定的。公的制度なら掛け金上限(国民年金基金の場合、月68,000円)まで年間支払額が全額控除されます。

また、国民年金基金は確定年金。年齢などによって掛け金が決まれば、65歳以降にもらえる老齢支給額も決定します。予定利率は1.5%。投資などと違って目減りの心配がないことも安心で、老後設計が立てやすいでしょう。
ただし、物価変動には対応できません。たとえば、インフレになりモノの値段がぐんと上がってしまったとすると、支給額は変わりませんから、支給額の価値が下がってしまうことになります。今のところ、大きなインフレになる兆しはありませんが。

デメリットとしては、ギャランティの安定しないフリーランスにとって、途中退会がむずかしいこと。大金が必要になっても、民間保険のように解約して解約返戻金を受け取ることができません。「老後資金を貯める」ことに特化しているからこそ、確実に貯まる、ともいえますが、せっかく貯めた自分のお金なのに融通が利かない、ともいえます。どちらをメリットと思うかは、あなた次第です。

もうひとつ個人的に私が感じるデメリットは、国民年金基金の設計がむずかしいこと。基本は終身保険でAかBかの2種類。どちらかをベースに、確定年金(10年だけ支給されるものや20年支給されるものなど)を5種類の中から積み上げていきます。増額は随時できるので、とりあえずは終身の基礎年金を選んで、少しずつ積み上げていけばいいのではと思います。

(2)小規模企業共済

国民年金基金が老齢年金の積み上げ的な存在に対し、小規模企業共済は自営業・フリーランスの退職金づくりという位置づけです。

小規模企業共済とは
①個人事業主か、従業員20人以下などの条件を満たす会社の役員が加入できる。年齢条件はナシ
②掛け金上限は月70,000円。全額、所得控除の対象で、増額・減額が自由に何度でもできる
③共済金の受取は、退職・廃業時(年齢は関係なし)が原則。15年以上かけ続けた方が65歳になったときは老齢支給もあり
④資金が必要なときには、低利の融資制度あり
⑤任意解約も可能だが、20年未満だと掛け金合計を下回るデメリットも

国民年金との大きな違いは、年齢に左右されないこと。フリーランスのなかには「一生現役」を目標と掲げる方も多いでしょう。目標通り、高齢になっても稼げているなら、いつまでも掛け金を払い続けられます。反対に、たとえば50代で病気になり仕事を続けられなくなった方は、廃業届を出せば退職金代わりとして共済金が支給されます。

予定利率は1%と国民年金基金より低いのですが、掛け金を複利運用しますから受取金額はそん色がありません。国民年金基金は終身年金ですから、長生きすればお得は続きますが、一方で、短命の場合なども考えられ、いくらもらえるかは不確実です。小規模企業共済は、掛け金と期間、退職事由で支給額が決まりますから、確実性もあります。

また、今はやりのiDeCoやNISAと違って、運用はお任せできる点も忙しいフリーランサーにはメリットでしょう。過去5年の平均運用利回りも2.74%(2017年度)と安定しています。

なんといっても仕組みがシンプルです。掛け金は1,000円以上、500円刻みで増減自由。資金繰りが厳しくなったら掛け金を最低の1,000円にして何とか継続する、儲かっているときは上限の70,000円に引き上げるなんてこともできます。

さらに、事業を行う方には低利の融資制度があることも大きなメリットではないでしょうか。「老後の年金より、今すぐの事業資金が必要」という事態が、事業家にはあるものですから。

(3)国民年金基金と小規模企業共済、どちらを選ぶべきか?

事業が安定していて「心配は老後の生活」という方には、国民年金基金がいいと思います。65歳まで解約ができないことで、確実に老後資金が貯められます。

ただ、私のように「1年先の仕事はないかもしれない」という不安のあるフリーランサーには、小規模企業共済をお勧めします。

その理由は
①掛け金の増減が自由で続けやすい
②シンプルな仕組みでわかりやすい
③廃業すれば年齢にかかわらず、共済金を受け取れるし、反対に、何歳になっても働き続ける限り、かけ続けることも可能

(4)小規模企業共済を選んだ方には、「付加年金」を

小規模企業共済を選んだ方には、ぜひ、おススメしたい制度があります。
国民年金保険料に、上乗せして納める「付加年金」です。掛け金は国民年金保険料+月400円。この制度を利用すると、国民年金を受け取るとき、月200円×払い込んだ月数分、上乗せされます。

「それって得なの?」一瞬わかりづらいのですが、2年で元が取れ、3年目からはずっとお得が続く制度です。

たとえば30歳で付加年金に申込み、60歳までの30年間毎月400円ずつ払い込んだとします。

30年間で支払った付加年金保険料は 400円×12カ月×30年=144,000円
65歳以降に1年間にもらえる付加年金は 200円×12カ月×30年=72,000円/年

つまり、国民年金に毎年72,000円、月に換算すると6,000円ずつ上乗せされるのです。

「それだけ?」ってガッカリしましたか?
でも、考えてみてください。この付加年金が死ぬまでずっと続くのです。

65歳からもらい始め、2年たてば支払った保険料の元が取れます。その後はずっともらい得が続き、75歳まで生きれば576,000円お得。85歳まで生きれば1,296,000円と、長生きすればするほどお得が増えるというわけです。

月々にすれば微々たるものでも、塵も積もれば山となる。利用しない手はありません。

付加年金は、第1号被保険者の方が自治体の年金窓口で申し込めば、すぐに始められますが、実は、国民年金基金と併用することはできません。国民年金基金は付加年金を含むという位置づけのようです。なので、国民年金基金ではなく、小規模企業共済を選んだ方の特典として、ぜひ手続してください。

(5)最後は、体が資本

ココまでが、国の機関に運用をお任せして、掛け金が目減りすることなく安定的に老後資金を増やせる公的制度です。老後資金のつくり方はたくさんありますが、私は順番があると思っています。

国民年金 <必須、義務>
  ↓ 
国民年金基金か、小規模企業共済(+付加年金) 
   <国の制度、運用はお任せで安心のリターン>
  ↓
iDeCo や NISA、つみたてNISA 
<所得控除、運用利益の税免除などメリットがあるが、運用成績は自分しだい)
  ↓
一般口座での投資 <自己責任>

いま、年金など、国の施策に対して不満があふれています。私も怒りを覚えることがたくさんあります。

それでも、です。今ある制度は最大限有効活用して、自分に役立てたい! そうして少しでも不安を減らし、年を重ねるごとにベネフィットの高まるフリーランスを目指したいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?