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私の内側にある美術 No.1 ハイム・スーチン

ハイム・スーチン(1893-1943)
リトアニア出身のユダヤ人。幼い頃から、ユダヤ人であるがために、絵を書くことを周りから非難され、彼の家族からでさえ、日常的な暴力を受けていた。彼はシュテトル社会(ユダヤ社会)が禁じた主題、例えば関節を折られ吊り下げられた鶏など、をあえて描いた。

スーチンはそれらの実体を描いているようであって、実はそのボリュームに秘める内的なエネルギーや意志を画面の上に描き出しているように思う。

「吊るされた七面鳥」ヘンリー&ローズ・パールマン財団蔵
「吊るされた七面鳥」岐阜県美術館蔵
「つがいのキジ」マルタ&ユージン・イストミン夫妻蔵

スーチンは、画面の上で、既に死んでいるボリュームに再びエネルギーを注ぎ込む。あたかも、薄皮だけの実体に筋肉や骨、血や器官を再び内蔵させるようでもある。内容を伴ったモチーフは画面の上で生気を取り戻し、独自の意志を持ちはじめる。「死んだ生命体」は、その内部を発光させ、永続的な明るさを獲得するだろう。

確実な輪郭線を与えないその描写方法は「死んだ生命体」の「動き」を表現するにきわめて適当である。



「長鼻の男(ラシーヌ)」個人蔵
「赤い服の女」パリ市立近代美術館蔵
「彫刻家ミスチャニノフの肖像」パリ、ポンピドゥー・センター=国立近代美術館蔵
「ホテルの支配人」オランジュリー美術館蔵
「男の肖像」オランジュリー美術館蔵
「若き英国人女性」オランジュリー美術館蔵
「若き英国人女性」部分 オランジュリー美術館蔵

スーチンの人物画。特に肩から腕にかけての部分に注目。正常な骨格の位置から、わざと脱臼したかのように独特な変形を用いて描かれている。さらにその脱臼した腕の部分には、それ以外の部分と明確な差別が与えられるように独自のマチエールが設定されている点も興味深い。また、腕全体が描かれるモチーフには、マニエリスム的な変形(奇妙に思えるほどに、腕が長く延長されている)が施されている点も見逃してはならないだろう。こうして体と腕は意図的に分割され、肩を空間の前面に突き出すことで、平面的な画面の中にわずかな奥行きを生じさせている。私はその微妙な奥行きに確実な深さを読み取るわけである。脱帽。

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