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私の内側にある美術 No.6 ヨハネス・フェルメール

ヨハネス・フェルメール(1632年‐1675年)
オランダの画家。バロック期に活躍。窓から差し込む光を室内に展開し、その光と陰影の空間の中で、人物や家具、静物を絶妙なバランスで配した。生き生きとした動きのある写実的な絵画を得意とした。


「兵士と笑う女」フリック・コレクション蔵

フェルメールの室内描写の中で、この絵が最も美しいと思う。
まず、ふたりの人物の配置が画面に奥行きをもたらしているのだが、その両者の間の空間を満たすかのように屋外からやわらかな光が入室している。窓から差し込む光が仲介となって、手前と奥のふたつの像を空間的に接続している。室内側に開放された窓が、擬人的にふたりの会話に加わっているようにも見えてくる。私はこの構図と光の関係性に目を奪われたわけである。


「天秤を持つ女」ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵
「天秤を持つ女」部分 ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵

この絵においては、特にテーブルの下の床面に着目されたい。画面左上の開口部から室内に入り込んだ光がわずかに床面まで達していることが白と黒のタイルの描写から観察できる。このタイルの微々たる光の反射が、机の下の暗い部分の空間構成を想像させるに役立っている。けだし、画家は画面下部を黒く塗りつぶして、怠慢のままに机の下部の空間描写を省略することも可能であったはずである。しかし、タイルをわずかに反射して描くことで、机の下の空間を取りこぼさずに描写する画家のその真摯な姿勢が素晴らしいと思う。


「真珠の首飾りの女」ベルリン国立絵画館蔵
「真珠の首飾りの女」部分 ベルリン国立絵画館蔵

同様に、この絵においても机の下部の床に僅かな光をスポットさせ、その光を机の脚部に回り込ませることで、机の下の空間の存在をたしかに示唆している。こうした、入念な光と陰影の配置は建築設計においても応用可能である。私は空間のなかに積極的に光と陰影を配すことのできる建築家でありたいと思う。


最後にル・トロネ修道院の開口部の写真を掲載して、フェルメールのコラムを締めたい。

「ル・トロネ修道院」

縦長窓のテーパーによる空間への光の広がり。
特に祭壇後ろの床面に落ちた光に注意せよ。
「ル・トロネ修道院」

光のエッジ。
光がかたちを視覚化する。


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