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私の内側にある美術 No.8 エドガー・ドガ

エドガー・ドガ(1834年‐1917年)
フランスの人。踊り子をモチーフとすることで有名である。印象派の画家として位置づけられるが、片方で、印象派の枠組みに収まらない画家としても知られている。大多数の印象派が「屋外」の風景を主題としたのに対して、ドガは「屋内」の風景を切り取った。風景の全体を把握するのではなく、トリミングによって画面に大胆な構図をもたらすことで、その画面内および画面外で発生している空間の状況を想像させる効果がある。


「オーケストラ席の楽士たち」フランクフルト市立美術館蔵

ニューヨークの写真家を思わせるような画面の切り取り方である。構図はあたかも望遠レンズを使用したかのような、狭い視野に限定されている。私はこの絵に対して、しばしば絵の中に参加しているような不思議な感覚に捕らわれる。絵画空間における近景と遠景の確実な切り分けが、この没入感を強くするのだろう。
また、高階秀爾の説明によれば、ドガは形態の明確さを追求するため、自らの作品に「色彩分割」を用いなかった、とある。「色彩分割」とは色と色を混ぜず、異なる色同士を隣同士に配置することで、視覚的・錯覚的な混色の効果を得る描写方法である。色のタッチのなかに、ものの形態を溶け込ませようとした印象派に好まれたマニエラである。たしかに「色彩分割」をあえて拒否したドガの絵には、印象派には見られないある種の緊張が張り詰めている。


「ダンスの楽屋」コーコラン・ギャラリー蔵

この絵からもまた、ドガが写真家のような優れた構図感覚を持っていたことが理解できよう。


「休息する踊り子たち」ボストン美術館蔵

対角線に配された長細いベンチが、画面を2つの領域に分割している。加えて、踊り子たちの目線の先にはたっぷりとした余白があることからも、この構図が何らかの示唆を含んでいることを感じずにはいられない。
果たして、ふたりの踊り子は、不在の余白にどのような感情を浮かべているのだろうか。こうした叙情の奥に隠れた構図こそが、ドガをドガたらしめる必然のマニエラであったのかもしれない。

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