子供たちは本気で世界を変えようとしている

先日、教室の中でこんなことがありました。相手は小学校2年生の子供たちです。

歌を使って、食べ物やその好き嫌いを表現する方法を学んでいました。私は別に細かい単語や文法の説明もしないで、子供たちの理解度を信じて、ある歌の動画を見せていました。

はじめは子供たちはその動画を見ながら、なんとなく体を動かしたり口を動かしたりしていたのですが、途中から面白い現象が起きました。

何があったかと言うと、画面からは日本語の歌が流れていたのに、子供たちは英語でその歌を歌い始めたのです。もちろんその歌は、有名な歌ではなく、食べ物や好き嫌いを覚えるための歌なのですが、子供たちは内容を理解し、それを適切な英語に訳して歌い始めたのです。

そんな事は全く予測もしませんでした。私の頭の中では、みんなで一緒に日本語の歌を歌いながら日本語の単語や文を学ぼうと言う事の一点だけでした。しかし、そこで実際に展開していた世界は、私の想像を超えてはるかに豊かな営みがあったのです。

また、昨日こんなことがありました。子供たちに日本語で質問して、「はい」か「いいえ」で答えてもらおうと思いました。私がある生徒に「チョコレートがすきですか」と質問したところ、首をひねってなかなか答えようとしませんでした。私はその生徒が私の言ったことを理解していないんだと思って、何度か繰り返したり、説明しようとしていました。すると、どうやらその子供が首をひねっていたのは全く別の事だったのです。

「ハイイイエ(はいいいえ)」

とその子が言いました。私はこの言葉を聞いてとても感動してしまいました。ご覧になってお分かりの通り、この言葉は「はい」と「いいえ」の2つを結合させたものです。

その子が首をひねっていたのは、私がした質問に対しては「はい」と「いいえ」の両方があり得ると思ったそうです。具体的には、チョコレートにもいろいろな種類があり、好きなチョコレートと嫌いなチョコレートがあると言うことでした。

これも全く私の予測の範囲を超えていました。子供たちは「はい」か「いいえ」かあるいは「まぁまぁ」のいずれかで答えると思っていました。しかし、その生徒は私のちっぽけな予想をはるかに飛び越えて、とてもユニークな答えを私に向けてきたのでした。正直、その生徒は普段からあまり積極的に日本語の授業に参加している生徒ではありませんでしたが、まさかそのようなユニークな答えを私に作ってくれるとは思ってもみませんでした。

以前であれば、そうした答えに対して「ふざけた答え」と言うレッテルを貼り、取り合わなかったかもしれませんが、今はその答えが光り輝いて見えるのです。

今回はたった2つの例でしたが、私はここに子供たちが示している「新しい本気」を感じることができました。どういうことかと言うと、私のような大人のフィルターを通すと不真面目に見えることであっても、当人の子供たちにとっては極めて真面目にやっていることであり、本気でやっていることだと言うことです。さらに言えば、新しい世代は、これまで大人が作ってきた息苦しい社会を、大人な考えもつかないような方法で「本気」で変えようとしているんだと思いました。

だから、私も本気で生徒に向き合わざるを得ないんだと思います。

ただ、その本気は冷たく重たい雰囲気を漂った本気ではなく、何が起こるかわからないワクワクに満ちた雰囲気があります。

教室の中は本気のワクワク空間なのです。

オーストラリアより愛と感謝を込めて。
野中恒宏

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