植田真梨恵「たったひとりのワンマンライブ vol.5 -門出-」2023.9.23 @新宿ReNY ライブレポート
植田の誕生日にあたる9/22「梅田Shangri-La」での大阪公演に続いて、翌日の9/23に行われた東京公演。エントランスでは毎度お馴染み本人プロデュースのライブグッズ売り場の他、フォトスポット、記念スタンプコーナー、門出を祝したご来賓リボンの配布など、来場者への感謝の意を表した愛情たっぷりの企画が用意されていた。
場内に進むと、映画『Life Aquatic』のサウンドトラックがBGMで流れる中、すでに多くのオーディエンスが集まっており、ものすごい熱気が立ち込めていた。ちなみに映画『Life Aquatic』はウェス・アンダーソン監督の2004年製作作品で、劇中ではデビッド・ボウイの70年代の名曲の数々を、登場人物のひとりがポルトガル語でボサノバにカバーして歌うシーンも話題になった。植田は、「作り手の挑戦と葛藤を感じる私の大好きな映画」と語っている。
定刻になり、客席に向け手を振りながら登場した植田はいつもと変わらぬリラックスした様子に見えた。しかしアコギを手にし、マイクを前にした瞬間、凛とした空気に自然と背筋がただされるような、清く、麗しい空間に一変。キリッと引き締まった表情で歌い出した一曲目は「支配者」だ。“♪支配者はこの世界に現れない この世界で私を動かすのは私だけ 選んだ道の先に 待ち受けている正解は 形ない日々と君だけ”という歌詞を生々しい歌声で力強く歌い切った。続く「悪い夢」では自然と客席から手拍子が起こり、少し硬めだった表情も徐々にほどけて、持ち前の伸びやかなヴォーカルを響かせた。そして、「Stranger」「FRIDAY」と、現在の彼女の心情がリアルに描き出されたかのような2曲が続く。彼女は本当に嘘のつけない、音楽に対してどこまでも誠実に向き合っていく人だということを改めて実感させられた。
「こんばんは〜。こんばんはには早い(けど)。元気でしたか?」
植田の呼びかけに、客席から「誕生日おめでとう〜!」の祝福の歓声が上がった。
「ありがとう! 9/22昨日誕生日だったんですけど、一瞬で消し飛んだ。あっという間に終わった。新生・植田真梨恵です。今日は心の向くままに楽しんでほしいんですけど、みんなが“いいね”っていう空間に最後まで私はしていきたいな〜。今日はどうぞよろしくお願いします。」
MC後は、くるくると煌めくミラーボールの光の中で熱唱した「メリーゴーランド」、続くインディーズ時代の代表曲の1つとも言える「心と体」では荒々しくギターをかき鳴らしながら感情剥き出しのアクトで圧倒した。さらに、「あっという間に夏が過ぎ去って、秋っぽくなってきた今日この頃、この歌を歌います」と言って情感豊かに「ダラダラ」、蠢く妖艶なライティングの中で「壊して」、時折目を瞑り一語一語噛み締めるように歌い上げた「FAR」と、「曲そのものが植田真梨恵」といったパーソナルなナンバーを続けて披露した。
「今年はいろんな動きがありまして、自分で想定してたことじゃないこともあったんですけど、新たな形で音楽を届けていくことになりました。でも音楽を届けていくということ自体は変わらず、私にとっては歌を作って、歌を歌いにいく約束をして、皆さんと会う。それに伴って楽しいグッズや可愛いもの、日々がちょっと元気になりそうなものを作ったりしていくことが私の仕事で、それ自体は全然変わらないまま、形がちょっと変わりました。
今回5回目となる「たったひとりのワンマンライブ」のサブタイトルには「門出」と付けました。そのままです。「FAR」にある、“♪よくわかんないものにこだわって 守ってた殻しがみついて”っていう歌詞の“守ってた殻”っていうのが“卵の殻”で、「そうか、会社とか、今までの私はこういう状態だったのかな」って。守られていたもの(殻)が割れて、生卵=生身の私が出てきたよっていう、そんなイメージで生卵の写真を家で撮ってグッズのデザインをしました。」
ツアータイトルやたまごのデザインに込めた思いを語った後は、インディーズ時代の人気ギターロックチューン「ミルキー」、最新アルバム『Euphoria』から普遍性の高いメロディが心地よい「BABY BAY BABY」「エニウェアエニタイム」、和の情緒を感じる「白い月」「ザクロの実」を立て続けにドロップ。渇いたスポンジがぐんぐん水を吸い込んでいくようにココロが潤っていく、そんな至福の時がゆったりと流れていった。と、ここで一旦アコギを置き、ピアノへ移動。
「緊張するのでちょっと喋りますね。ギターで「恥ずかしい」をやろうとしたらあまりにも良くなくて、下手くそなりにピアノでやることにしました。作った時のまんまの「恥ずかしい」です。」
「私なりのブルーズ」というこの曲は、盟友・西村広文との「Lazward Piano」公演で披露されたことはあるが、弾き語りは初。照れ臭そうにしていたMCとは一転、感情の赴くまま生み出されるグルーヴに、あけすけなまでに内面をさらけ出した歌声を轟かせた。息を呑むように聴き入るオーディエンスの姿からは、植田の思いにそっと寄り添おうとしていることが窺えた。
そうしてライブは後半へ。弾き語りライブでもお馴染みの「サイハロー」「飛び込め」、この日一際大きな手拍子が鳴り響いた「カルカテレパシー」を披露。次の「S・O・S」では珍しくギターのコード進行が飛んでしまい「あれ?なんか違う。思い出せない!なんで〜?」と何度か弾き直す場面も。結局正解にたどり着けないまま、観客からの熱いリクエストに応えて違うコードで歌い切った。めちゃくちゃ悔しがる本人とは裏腹に、予期せぬハプニングもライブの醍醐味の一つとばかりに盛り上がる客席。繕って誤魔化したりしないこういった人間らしい所もまたファンにとっては愛すべき一面なのだろう。
「不安なこともあると思うんですけど、みんなも。だけど、きっと大丈夫です。過ぎてしまえば。私は今日はすごく不安だったけど、本当に会いにきてくれてありがとうございました。大丈夫になりました!」
温かな拍手に包まれて、ラストを飾ったのは「変革の気、蜂蜜の夕陽」。彼女にとって様々な思い出や思いが詰まった特別な一曲を堂々と歌い上げ、本編を締めくくった。
アンコールは前日同様、オーディエンスからのリクエストに応えて演奏曲を決めるということで、観客に「聴きたい曲はありますか?」と投げかけると、「クリア」「サファイア!」「愛おしい今日」「ルーキー」「未完成品」「JOURNEY」「パエリア」「夢のパレード」「よるのさんぽ」「センチメンタリズム」「プロペラを買ったんだ最近」「夜風」と思い思いの曲名が飛び交った。その中から最終的に、ピアノで「愛おしい今日」を弾き語りすることに。
「歌を歌い続けてこられて本当に良かったです。ありがとう。」
会場の端から端まで見渡しながら、観客と心を紡ぐように「愛おしい今日」を歌い、全21曲、2時間の弾き語りライブは感動の中幕を閉じた。
今回の新宿ReNYでのセットリストは、「ゆったりした曲が多いからもう少しアグレッシヴだったり、ポップな曲を挟もう」といった配慮は優先せずに、あくまで植田自身が心のままに歌える曲で構成していたように感じた。一年前に4thアルバム『Euphoria』を完成させた時、「私の音楽として極めて自然な姿を映し出した『Euphoria』を作ってしまったら音楽をやめちゃうかもと思っていたけど、もしこのアルバムを受け入れてもらえるんだったら、むしろ私はまだまだ音楽を作っていけると思います。」と語っていた彼女。同様に、ありのままの自分をさらけ出して受け入れてもらえるならば、喜んでもらえるならば、ここからまた新たに始めていける。「門出」ツアーにはそんな思いもあったのではないだろうか? そしてそれが確信に変わったのであれば、きっと彼女はさらに強固なアイデンティティを持って新たなユーフォリアを追い求めていけるはず。
来年はメジャーデビュー10周年を迎え、12ヶ月連続ワンマン「2024 Ueda Marie Major debut, 10 YEAR kinen Live きらめきとためいき」の開催が発表された。今回の「門出」ライブを経て、どのようなステージを見せてくれるのか。さらなる進化に期待したい。
(text by Yukari Matsubara)
2024 Ueda Marie Major debut, 10 YEAR kinen Live きらめきとためいき
メジャーデビュー10周年を迎える2024年、12か月連続ワンマンが決定しました!
毎月どこかへ歌いに行く1年。箱庭の集いも同日開催!
弾き語りで開催する9か所と、東名阪は久しぶりのフルバンド!
1月21日(日) 福岡 福岡大名ライブハウス 秘密
OPEN 14:30 / START 15:00
(問) info@uedamarie.net
2月24日(土) 京都 磔磔
OPEN 14:30 / START 15:00
(問) 06-6357-4400 サウンドクリエーター
3月20日(水祝) 宮城 retro BackPage
OPEN 14:45 / START 15:30
(問) 022-217-7788 キョードー東北
4月20日(土) 広島 音楽喫茶ヲルガン座
5月19日(日) 神奈川 新横浜NEW SIDE BEACH!!
6月22日(土) 愛知 Electric Lady Land (BAND)
7月20日(土) 石川 メロメロポッチ
8月某日 北海道某所
9月22日(日) 東京 新宿ReNY (BAND)
10月某日 愛媛県某所
11月23日(土) 新潟 高田世界館
12月某日 大阪府某所 (BAND)
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