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【七転び八起きの五起き目①】

【七転び八起き】マガジン

 スノーボードW杯のフェアウェルパーティーでパフォーマンスしたり、サンドウィッチマンの番組で紹介されたり、ビアガーデンで投げ銭ライブしたり、NHKラジオの取材受けながらオータムフェストのステージでパフォーマンスしたり……路上で酔っ払いに絡まれたり……チカホでボートを漕ぐフリしてみたり……好き勝手に無邪気に駆け抜けた自称プロパフォーマーの無職30代男性。

 よく考えたらフリーペーパーの広告集めたり日雇いのバイトしたりでよくあの支払いを乗り越えたよね。
 その瞬発力があるのになぜ飲食店を潰したと問い詰めたいぐらいだ。

 さて、パフォーマンスをして名刺を交換してみたいなのを繰り返していたら、イベントでピザを焼かないかって誘いが入ってくるようになった。もちろんそういうオファーをこちらも欲していたので大歓迎である。
 あの赤いピザオーブンの出番がついに来たってわけだ。

 そういえばその前にクソ重たいアウトドア用のピザ窯でピザを焼いたり、お試しみたいな感じでレンタルしたピザオーブンを使ってイベントに出店したり、パフォーマンスだけではなく実際にピザを焼く仕事も増えていたんだった、すっかり忘れてたけど。
 イベントとかだとだいたい1日に100枚ぐらいのピザが売れる。むしろそれ以上焼くのはキツい。店がないから生地を仕込むために知り合いのパン屋にお願いしてミキサー借りて冷蔵庫も借りて……なんとかやれていたけど過酷だったよね、番重とか家の小さなシンクで洗うのかなりキツかったもの。

 HOKKAIDO PIZZA giocosoってのはお店や企業の名称ではなく、北海道の食材を活かしてピザを作ろうという活動そのものにつけた名前だった。音楽の発想記号『giocoso』はおどけて陽気に楽しくみたいな感じ。

 赤いガスオーブンに番重持って、増毛町のエビ祭りにお邪魔したり、富良野のワイン祭りにお邪魔したり、90分待ちとかでも余裕で普通に待ってくれたお客さんたちには感謝しかない。
 コロナ禍でキッチンカーが儲かるとかでみんな地方回り始めたけど、そういう感じに近いかな。キッチンカーなんてなくても、化石みたいなランクル乗ってる友達がいれば全然やれるけどね。
 パフォーマンスしてピザ焼いて、テレビや新聞にもたまに取り上げられて……あの日々はもしかしたらテトリス棒が落ちてくるまでの地盤作り、仕込みの時間だったのかもしれない。

 そしてここでサングラスをした富良野のチャック・バスからの電話だ。電話でも分かる、絶対にサングラスをしていたはずだ、くわえタバコで、けど、タバコは電話が繋がったら律儀に消すタイプ。

 「とみたメロンハウスの社長覚えてる?」

 ここから全てがまた始まるわけだが……当然全然覚えてはいなかった。全然ではないか、富良野のイタリアンのプロデュースしたときにお店で紹介されたのは覚えていたけど、毎日いろんな人を紹介されて色んな人と握手して、色んな人と乾杯していたから、誰が誰だかまではさすがに。

 商業施設のテナントに空きが出たからピザ屋をそこでやらないかという誘いだった。もちろんそんな怪しい誘いはお断りだ。

 「中富良野?遠い、無理」

 Googleマップに表示された距離だけ見てそんな素っ気ない返事をしたマヌケな男を富良野のチャック・バスはゆっくりと丁寧に根気強く説得してくれた。
 彼はピザ屋の性格をよく知っていたから、このビジネスチャンスを逃させないために上手に最新の注意を払いながら誘導してくれた。危険物の移動みたいな感じでね、それがなかったら最初の段階で終わっていた話だったかもしれない。

 美瑛、上富良野、中富良野、富良野、南富良野……どこがどこでどれがどこかさえもさっぱりだったけど、帰り道の夕陽がとても綺麗だったから、この方向で合ってるんじゃないかって、そう思ったんだ。

 今でもたまに眺める夕陽。

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