見出し画像

【ライブ配信⑤】

ライブ配信】マガジン

 配信していたライブ配信アプリにはイベントというのがあって、そのシステムはイベント専用のギフト(有料)をリスナーに投げてもらってそのポイント(金額)を競うというもの。その内容はただポイントを競うものから、駅の広告に載れたり、勝ち抜いてオフラインイベントに進むものなど様々だ。
 あまりにもエゲツないシステムだったから、基本的に参加したことはなかった。参加した方が投げ銭を貰いやすくなることは分かっていたけど、なんか怖くてね、真夜中に泣きながらありがとう連呼してる女の子とか見てたら……投げてる金額見てたら……微笑むだけで100万舞うの見てたら……怖くて。

 いつものように好きな音楽を流し優雅に仕込みしながら喋って、最後には何枚かピザを焼いて、少しだけピザアクロバットを披露して終わる。
 結局、ピザは回したくなるからテンションが上がったら最後の方に回すみたいなノリの配信スタイルに落ち着いていた。

 その日もダラダラとのびのびとそんな感じで終わる予定だったんだ。そろそろ終わりかなって、そんなタイミングでリスナーから謎のコメントが届いた。
 「よし、もうやるしかない」
 全然覚えてないけどなんかそんな感じだったと思う。熱心に小学生ライバーの応援をしているリスナー。いつ頃からか配信に来てくれるようになってたまにギフトを投げてくれてたりしていた陽気なおじさん。

 ほどなく、30万分のギフトが投下された。

 え?っと驚いてるうちにコメント欄が大混乱になった、一体何が起きたのか……。彼が何をしたかったのかはすぐに分かった。他のリスナーが気がついてコメントで教えてくれたんだ。なんだかよく分からないけど5日間ぐらいで行われる短期イベントのランキング首位になっていたと。
 そう、彼は田舎で優雅にカフェラテ飲みながらピザを回している男を戦地に放り込みたかったのだ。

 配信中だったから参加させられたのがどんなイベントなのか、何が起きているか完全には把握しきれておらず、とりあえず頭の中は30万ポイントだといくら貰えるんだっけ?ぐらいのことしか考えてなかった。
 リスナーたちが盛り上がる。便乗して他の奴らもイベントギフトを投げ始めた。もちろんよく分かってないからイベントに参戦すると宣言したわけではない。
 ただ、彼らはランキングを見て知っていた、2位にランキングしているライバーがテレビに取り上げられたりしているトップライバーだということに。それもあったから余計に盛り上げたくなったのだろう。

 トップライバーがイベントに参戦していると、そのライバーの応援をしているリスナーたちはランキングに入っている他のライバーの配信を見に行くってのは通例で、あろうことか我らがトップライバーを抑えてトップになっているピザ野郎がいるとなると、もちろん雪崩のように彼らは配信に攻め込んでくる。

 確実に視聴者が倍増していた、明らかに初見のリスナーが増えていた。あ、これは乗らないとダメな波だなと、イベントには参加しない主義を貫いていたけど、その時ばかりはさすがに諦めた。

 やるならじゃあやらなきゃならん。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?