歌詞プロデューサー・いしわたり淳治さんが語るミスチル

 歌詞プロデューサー・いしわたり淳治さんが語ったMr.Childrenについての考察(2017年)

●ミスチルの影響力について

 ミスチルを意識しないでバンドやるのは無理だったと思います。それくらい、みんな、心のどこかで意識して音楽をやってたと思います

ミスチルはもはやインフラだと思ってて。ていうのも、僕が20年ほど前に音楽を始めた時から、もうモンスターバンドで、ミスチルがいい曲を出してない間に、音楽を作ったことがないんですよ。だから、水道をひねったら安全な水が出てくるのと同じように、ミスチルが出したら、良い曲がでてくるんですよ。だから、それを意識しないのは無理で

●ルール無用。ミスチルの歌は力技~メロディに対して、文字数の制限を作らない。

 普通、Aメロを繰り返す時に、1番のAと2番のAを文字の塊で見たら、だいたい文字数って揃ってるんです。ミスチルって、そこにルールがないんです。だから、字だけを見たら、これどこのメロディーに入ってるんだろうっていうくらい文字数がバラバラなんですよ

 世の中に出てる曲って、9割ぐらい曲が先にあるので、作詞って、ある種、曲ありきで、それをあまり壊しちゃいけない暗黙のルールがあるんですね。ミスチルは、ものすごい歌い回しを工夫して、文字数をねじ込んでるんですよね。それによって、あのみすちるらしい早口みたいなのが発生してるんだと思うんですよね。不思議なのは、これ一体どうやって入ってんだろうと思うんだけど、一回聞いたら口ずさめるんですよ。計算しているのか、天才なのかというとこなんだろうと感じます

 メロディーに対して、ぐわっと言葉をねじ込むことによって、言いたいことが勝ってるって印象になると思うんですね。メロディーの奴隷になって間延びした言葉が並んでいると、なんか、形整えたなって印象の聞き応えになる。早口なのに理解できるのは、言いたいことがあるんだって受け取るからだと思います

●手垢のついたテーマで名曲を作れる~ありがちなテーマでも名曲を作れる

 ものすごいスタンダードな言葉だけでも名曲を作れるっていうのがすごいとこだと思うんですよね

・例えば、「常套句

一般的に、ミュージシャンは、個性を出したがるものです。でも、一番手に入れるのが難しい技術こそ、誰にでもわかる音楽をカッコよく作ること。この曲は、会いたいというこの世に一番多いのではないかというぐらいありがちなテーマで、きばつな言葉をいっさい使わずに、名曲を作り上げました。ミスチルは、奇抜にもスタンダードにも名曲を作れる。日本を代表するポップミュージシャンであることの証明がこの曲から伝わるのではないでしょうか。

 西野カナさんも、「会いたくて 会いたくて」という曲があるんですけど、その後に「震える」ってちょっと奇抜なワードが入ってるんですね。だから、会いたいの曲を作る時に何かワンスパイス入れないと特別になれないんです。だけど、ミスチルは、それすらしなくても、いい曲を作ってしまったんです。しかも、それを、2012年のタイミングで。

・「常套句」というタイトルについて

 たぶん、奇抜な言葉が一個も入ってないから、自分では、客観的になった時常套句が並んでるって思ったんじゃないかなって思いますね。

●「タガタメ」のテクニック

 とっても技術的な話になってしまうんですけど、平和の歌って作るのがものすごく難しいんです。なぜかというと、みんな知ってる概念じゃないですか、身に覚えのある概念というか。それって、すごく道徳的になりすぎたり、ぼんやりしちゃうんです。だから、自分の日常と世界平和っていうのがどういう手順を通じてつながっているのかというのを段階を踏んで展開していかなくてはならないんですけど、これ、最短ルートで完璧にできてるんですよ。

一番最初のディカプリオの出世作を録画する話って、ものすごくクローズドな自分の部屋の話ですよね。で、その部屋から空を見て、空ってパブリックっというか、みなさんのものじゃないですか。でも、自分の見る空は自分の空で、ここはつながってるじゃないですか。空から地面に話が降りてくると、違う人の話になるんですよ。ある人とある人の話になるんです。で、ある人の話を横へズらすと子供らの話になるんですよ。みたいに全部がつながっているんだけど、気づくと、子供らの未来の話になってるんですよね。っていう最短ルートの手順を通って広い歌にしてるんですよ。

 これは、すごいです。簡単なルートを辿るんだったら、ディカプリオの出世作は、戦争映画にすればいいと思うんですよ。それをしないで、この手順をたどっていくっていう・・。たぶん、日常を幸せに暮らすことが大事だってことにしたいから、二番の後ろは、明日もし晴れたら 広い公園へいこうって、ものすごい熱量でこんな普通のことを歌うんですよ。被害者とか加害者とかがという話じゃなくて、そこが大事なんだっていう手順もたどってるんですよ。 。


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